選手を怒らない指導

4月25日の日経新聞夕刊連載「人間発見」、スポーツ心理学者 田中ウルヴェ京さんの「五輪がゴールじゃない」第4回「米国のコーチ留学で衝撃」から。田中さんは、シンクロナイズドスイミング(当時)のオリンピックメダリストです。

・・・ 24歳で米国にコーチ留学。日本と違う指導に衝撃を受けた。
当時の米国はシンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング)世界一の国です。私の受け入れ先となってくれたカリフォルニア州ウォールナットクリークのクラブは、複数の五輪金メダリストが在籍する名門でした。米国代表監督のゲイル・エミリーさんの横で4年間、毎日指導を見させてもらいましたが、一番驚いたのが選手に掛ける言葉です。
「楽しんで演技しよう」「自信を持って」「ファンタスティック!」。エミリーさんの発する言葉は前向きなものばかりでした。日本で「ちゃんとやりなさい」「そこは丁寧に」とミスの指摘や注意の言葉ばかり聞いてきた身には、大きなカルチャーショックでした。

もちろん、練習でミスも出ます。でも、エミリーさんは選手には聞こえないよう、私の耳元で「最悪だわ」とボソッと吐き捨てるように言って怒りを鎮めていました。選手にぶつけても、うまくはならないというのです。世界一の実績があるだけに、これが強くなる指導なのだと胸にストンと落ちました・・・