4月21日の日経新聞、出木場久征・リクルートHD社長の「海外で買収、英語より熱量」から。
日本企業は「失われた30年」のトンネルを抜けつつあるが、成長力では海外企業に見劣りするのが実情だ。どうすればカギを握るグローバル化とデジタル化を加速できるのか。米社のM&A(合併・買収)により2つの課題に挑んだリクルートホールディングス(HD)の出木場久征社長が自らの体験を踏まえて語った。
――今でこそインディードの買収は海外M&Aの成功例と言われるが、勝算があったのか。
「当時のインディードの売上高は年60億〜70億円だった。どこかの新聞が『これがまた日本企業による高値づかみにならないことを祈る』と書いた記憶がある。個人的にも失敗したら責任をとって辞めるしかないと思い、マンションや車、家具を売って渡米した」
――リスクが高いと分かりながら買収を決めたのはなぜか。
「本当にビジネスを変えなければいけなかったからだ。あらゆる事業領域で米グーグルにやられるリスクがあり、日本の人口が減る中で、当社の事業は人口が増えないとどうしようもないといった課題も抱えていた。八方ふさがりで、これしか食べるものがないという状態だった」
「社内では『おまえ、失敗したらどうするの』と聞かれ、『またやるでしょう』と答えた。人材は当社が一番強いビジネスなので、50年先のことを考えたら失敗しても再挑戦するしかない。このように追い込まれた方が成功する確率が上がるという気がしている」
――では、なぜ成功したのか。
「僕は会社、リクルートのために生まれてきたわけではなく、『こんなことが世の中でできたら楽しいな』という気持ちで仕事をしている。こうしたモチベーションでやる方がうまくいく確率は上がるはずだ。インディードの創業者と気が合い、やりたいことが近いという幸運もあった」
――リクルートHDの社長として、6万人近い社員に会社への忠誠心は不要と言えるか。
「そういうことはめちゃくちゃ言っている。社員から『他社からこのような条件で誘われている』と聞いたときは、『すごくいいね。僕が君の立場だったらすぐに行っちゃうけどね』などと話している。引き留めないのか尋ねられることもあるが、だめなら戻ってくればいいし、一人ひとりが楽しくやるほうがうまくいく」
(奥平和行・編集委員の解説)
「なぜそれが条件になるんですか」。リクルートHDの社長に就く際、帰国を求められなかったかと尋ねると、出木場氏は驚いた表情をみせた。
20年近く前、英国出身のハワード・ストリンガー氏がソニーのトップに就いたときは、日本に住まないことへの非難が社内外で相次いだ。経営者の居場所が問題にならなくなったことは、日本のグローバル化の進展を浮かび上がらせる。
一方、社長の若返りは進んでいない。出木場氏は45歳で現職に就き、前任者よりも3歳若い新トップとなった。だが、日本全体に目を向けると30年以上にわたって新社長の平均年齢は上昇を続けている。
年齢がすべてではないが、出木場氏は「自分の成功パターンで判断するようになり、老害になっているのではないか」と打ち明ける。非連続な変化が必要な多くの組織が耳を傾ける必要がある指摘だ。