日経新聞私の履歴書、「野本弘文・東急会長、各組織の論理と全体を見る目」の続きです。今日は、3月20日の「渋谷の危機」から。
2000年代後半、東急の本拠地である渋谷の魅力が衰え、銀座、新宿、丸の内、六本木などと比べて存在感が薄くなっていました。駅周辺の建物を高層ビルに建て替える計画が進んでいました。その計画に対して、野本さんは「何か楽しさが足らない」と感じます。
「歩いていて楽しい場所でなければ人は来てくれない」と、新しい企画を提案します。それに対して社内からは「予算をオーバーします」という声が出ました。野本さんは、顧客からどう見えるかを優先します。
「施設の魅力向上に役立つ投資だと思ったからだ。予算ありきで真面目に考える傾向は多くの組織でみられるが、少し発想を広げて顧客をどのように楽しませるか考えてほしい」
この話は、私にとっても耳の痛いことです。県でも、財政課職員、財政課長、総務部長として長年にわたって予算査定に従事しました。第一の「哲学」は、予算の範囲内に抑えることでした。要求額を削減すること(「削る」と言っていました)を、任務と考えていたのです。
富山県総務部長の時、中沖豊知事が事業をじっくりと検討し、時に大幅な増額をされました。それを見て、目が覚めました。ある施設の改修事業案について、職員と利用者のことを考えて計画変更を提案し、予算額を増額しました。知事に報告したら喜んでもらえました。「岡本君も、ようやく分かったか」と笑っておられました。
3月22日の「事故」には、次のような文章も載っています。
「事故から1週間後に開いた集会をはじめ、たびたび社員に呼びかけてきた。
責任は「果たすもの」であって「取るもの」ではないという考え方。もちろん結果によって早々の責任を取らねばならないが、再発防止に向けて組織としては、責任を追及する以上に原因を徹底的に追求する姿勢を大切にしたい」