野本弘文・東急会長、各組織の論理と全体を見る目

日経新聞私の履歴書、3月の「野本弘文・東急会長の若き日の苦労」の続きです。今日は、3月16日の「開発事業」から。子会社社長から本社の開発事業部長に就任されます。

・・・たまプラーザ駅周辺でも大規模な再開発が進んでいた。・・・私が着任したとき、すでに段階的に開発・工事は進んでいたが、計画を変える大きな提案をした。
「駅を覆う大きな屋根をかけなきゃだめだ」。駅と商業施設を一体化するのが目的で、雨の時も傘なしで移動できる。外光をしっかりと取り入れ明るい空間を創り出す。見積もりを取ると10億円強。鉄道部門はそんなお金は出せないという。「それなら駅の施設ではあるが、開発部門のほうで出そう」と、自分の責任で引き受けた。私が担当する前にも屋根をつけたほうがいいという議論はあったらしいが、誰が責任を持つか、なかなか決断にまで至らなかったときく。

組織の論理だと、どうしても事業収支を考えコスト面を優先しがちだが、お金をかけた分は、それに見合う収入を会社全体で増やせばいいのだ。快適で楽しい場所になればお客様は来てくれるはずだ。後日、鉄道建築協会の「最優秀協会賞」を受賞し、駅の乗降客も増え、商業施設にも連日遠方から多くの方が来店するようになった・・・

もう一つ、後ろ向きの姿勢と前向きの姿勢について。
・・・バブル崩壊以降、10年以上にわたって、内向きの姿勢で事業の立て直しに多くの時間を費やさざるを得なかった東急グループ。「選択と集中」を掲げ、大なたを振るってきたが、主要事業の一角であるホテルやスーパーマーケットは、いまだ収益的な課題があり、その改善が急務であった。
「責任ではなく原因を追究しましょう」。越村敏昭社長に進言した。「たしかにそうだな」。誰に責任があるかというアプローチではなく、ビジネスの問題点を冷静に洗い出し、その原因を追究することが大事である。言い出しっぺがやれということで、私が構造改革のプロジェクトも担当することになった・・・