2月2日の朝日新聞夕刊に、池上正樹さんの「ひきこもる人、その心の声は」が載っていました。ひきこもり状態にある人(15~64歳)はいま、全国に146万人います。
ひきこもる人は、いまだに「家族に甘えている」「働かないで楽をしている」と言われることが多いが、「それは全くの誤解。実態はまるで違います」と強調する。
では、ひきこもりとは何か。「過酷な状況を生き延びるための防御反応であり、そんな状況はいつ誰に訪れてもおかしくありません」と語る。
例えば、学校や職場でのいじめやハラスメントで尊厳を傷つけられる。厳しい労働環境で心身の健康を脅かされる。様々な事情が重なり他人が怖くなると、人との関わりを避けざるを得なくなる。「それでも自死を選ぶのではなく、何とか生きようとしている。それがひきこもっている人の心の内です」
そうした実情を踏まえた上で、ひきこもり状態からの回復には何が必要なのか。まずは、傷ついた心と体をじっくりと癒やすことだが、実際は本人や家族は、社会的なプレッシャーにさらされ続けている。
働かないのはいけないこと、親の収入に依存し迷惑をかけている……。何より本人が「ふがいない自分」を責め、苦しい思いで日々を送る。「これではいつまでも気持ちが休まらず回復は遠のく」と指摘する。
取材を続けてきたこの30年近く、ひきこもる人が増え続ける問題に対応できない福祉行政の姿を目の当たりにしてきた。
ほとんどの福祉窓口の職員は傾聴はしてくれる。だが、何をしたらいいかは教えてくれない。職員たちもどうしたらいいか分からない様子だった。親が相談に行くと「本人を連れてきて」と言われることも多い。それができないから苦しんでいる親子をたくさん見てきた。
厚生労働省は09年から、都道府県と政令指定市に、一次的な相談の窓口となる「ひきこもり地域支援センター」を設けた。22年にはそれを拡充し、市町村単位に窓口を置く「ひきこもり支援ステーション」事業などを始めた。だが、全国1724自治体のうち、新たな事業に手を挙げているのは1割強の210余にとどまる。
根拠となる法律がなく、支援するかどうかは自治体の裁量となる。なかには、独自の施策を打ち出す熱心な自治体もある一方、ほとんど関心を示さないところもあり、地域間で格差が大きいのが実態だ。