年別アーカイブ:2023年

連載「公共を創る」第156回

2023年7月20日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第156回「福祉提供国家から安心保障国家へ」が、発行されました。前回「生活者省」の設置案を説明しました。今回は、生活者省の役割、自治体への影響などを説明します。

次に、もう一つの行政の役割の変化を説明します。それは、福祉提供国家から、安心保障国家への転換です。
まず、目標が福祉から安心に変わります。現在問題になっている孤立や孤独、社会生活で自立できない人のためには、福祉の提供では問題は解決しません。安心を保障しなければなりません。
そして、政府が自らサービスを提供する方式から、政府がサービスの提供と質に責任を持ちつつ、その実施については民間を利用する方式へ変わります。そして、民間の提供を含め、その量と質に責任を持つことが、政府の役割になります。
すると政府の役割が、提供者の論理から、生活者の論理に変わることが見えてきます。

国と地方の役割再定義

2023年7月20日   岡本全勝

7月12日の日経新聞オピニオン欄に、斉藤徹弥・上級論説委員の「国と地方を再定義する覚悟 金利と賃金が改革促す」が載っていました。

・・・地方分権を動かす契機となった1993年6月の地方分権推進に関する国会決議から30年。折しも岸田文雄首相が「令和版デジタル行財政改革」を掲げ、国と地方の役割を再定義すると表明した。
「国を頂点とする上意下達の仕組みを、国がデジタルで地方を支える仕組みに転換する。国と地方の役割を再定義していく」。首相は6月21日の記者会見でデジタル行財政改革を通じて国と自治体の関係を見直す考えを示した。
デジタル行財政改革は、国がデジタル基盤を整備し、それを使って自治体やNPOが国民に個人単位できめ細かい行政サービスを提供するものだという。デジタル庁がめざす電子政府の姿であり、これ自体に違和感はない。
行政改革を、国と自治体のあり方の見直しにつなげる視点も悪くない。地方制度の大きな改革は、政治に行政改革の機運が高まったときに進んできたからだ・・・

・・・当時は岸田首相と同じ宏池会の宮沢内閣。首相も今回、行革に火をつけることで国と地方の役割の再定義を政治課題に載せようとしているように映る。かつてのような熱気はなく、成否は不透明だが、再定義を必要とする素地は地方に広がりつつある。
首相のめざす再定義は、デジタル化で国の役割が増え、国への再集権の色合いを帯びるものだ。分権とは逆だが、地方の現場にはそれを求める声がある。人口減少で小規模自治体は人材が制約され、分権で広がった役割を担うことが難しくなっているためだ・・・

・・・人材不足は国と自治体の役割を見直す契機になるが、一方でコロナ下で緩んだ財政は改革への意識を鈍らせる。人は足りないがお金はあるという状態が事業のチェックを甘くしている面もあろう。
自民党は地方財源を減らした三位一体改革が2009年に政権を失う遠因になったとして、政権復帰後は地方財源を十分に確保してきた。長く続く低金利のなせる技だが、これは結果として地域の産業構造を温存し、賃上げで地方経済を底上げする努力から目をそらさせてきた。
だが動かない金利と賃金のおかげで地方が現状維持に甘んじていられた時代は終わりに近づきつつある。日銀はバブル崩壊後以来続けてきた低金利の見直しを視野に入れ、今春の賃上げは31年ぶりの上昇率となった。
金利と賃金が動き出せば、地方は変化を迫られる。首相が国と地方の再定義を提唱した背景にこうした思惑があるなら地方も覚悟が必要だ・・・

人事院初任研修3

2023年7月19日   岡本全勝

人事院初任研修」「人事院初任研修2」の研修生の反応が送られてきました。いくつかを、一部改変して紹介します。

【基調講義について】
・前例のない事態に対してどう組織を作り、次々に噴出する問題に対して動いていったのか、その本人から当時の思いを聞くことができ、非常に有意義だった。自分の仕事の大半は前例があるものばかりだが、自分は何ができるのか、どのような付加価値を付けられるのかを常に考え行動できるようにしたい。

【全体討議】
・自らの班内で出なかった考えや視点について他の班の発表を通じて学ぶことができた。 また、考えていたことに対するコメントを岡本講師からいただき、自分たちが考えた対応と現実とのすり合わせのようなことができた。 深掘りよりも広く論点整理が重要であることを学ぶことができた。
・与えられた課題がどれも、議論次第で自由に展開できる余地が残されているものだったため、各班が発表する内容も多種多様なものとなりました。他省庁同期との議論から得られた様々な知見は大変勉強になりました。また、岡本講師が、行政の永遠の課題として、「公共の福祉」と「国民感情」のバランスがあり、これに逃げずに対応する必要性をお話しくださった点は、大変印象深かったです。

グローバル化の果て

2023年7月19日   岡本全勝

6月28日の朝日新聞オピニオン欄、牧原出・東大教授の「グローバル化の果て 富の偏在進み固定、徳の失墜と無関心、民主主義が劣化」から。

ベルリンの壁に象徴された東西分断が終わり、グローバリゼーションが世界を席巻し始めてから約30年。世界の経済はつながり豊かになったが、その一方で社会の分断は進み、国際的な対立も激しくなっている。新たな壁が地球を覆うのか。我々は何をなすべきか。国内外の政治や行政を見つめ続けてきた牧原出さんに聞いた。

――グローバリゼーションが生み出した変化とは何でしょうか。
「東西世界を引き裂いていた『壁』が崩壊して冷戦が終わった時、最大の問題は旧ソ連、旧東欧圏の国々をどうやって民主化するか、そして資本主義に取り込むかでした。私が大学の研究員として英国に向かった2000年から数年は、EU(欧州連合)で共通通貨ユーロ導入が本格化した時期です。これら旧社会主義圏の取り込みによるEU拡大を、フランスは官僚制の枠組みで、ドイツは連邦制の手法で、英国は投資先の広がりとして捉えているとまで報じられていました」
「当時、グローバル化には希望がありました。ピュリツァー賞受賞者の米ジャーナリスト、トーマス・フリードマンの著書『フラット化する世界』がこの頃出版されます。そこでは、中国やインドの経済成長をインターネットが促す結果、世界経済は一体化し、どこでも共通の条件で競争できる、という世界が描かれていました」

「しかし、その後の現実は異なりました。中間層が縮小し、現代化に向けた改革も世界標準を喪失し、各国独自の方向を探らざるを得なくなりました。経済成長を前提とする『希望のグローバル化』も、成長エンジンだった中国は鈍化し始め、インドもそれに代わるだけの力が見えません。コロナ禍とウクライナ戦争は、そうしたマイナス面を推し進めました」

――結局、プラス面よりマイナス面が大きかったのでしょうか。
「グローバル化の結果、19年の世界のGDP(国内総生産)総額は85・9兆ドルと、1960年の約60倍にもなりました。一方でG7(主要7カ国)の世界経済でのシェアは、00年の65%から20年には46%と急速に小さくなっています。同じ時期に4%から17%に急拡大した中国と対照的です。世界はそれなりに豊かになり、最貧国も貧しさの度合いは確実に改善した。その半面、『壁』がなくなり、グローバルな規模で移民が拡大して先進国にグローバル水準の貧困が流入し、新たな分断が起きています。貧しかった国でも、富が一部の層に集まり、貧富の分断が起きています」

「問題は、こうした富の偏在が是正されなくなっていることです。欧米や韓国などでは、富を自分の家族の中で蓄積させて、子や孫らを高学歴とするための獲得原資に充てようとする傾向が強まっています。米国では大学の授業料があまりに高額になり、授業料ローンを返済できない学生も現れています。結局返済できるのは高額所得を確実に得られるか、親が富裕層の場合だということになっています。教育による富裕層の固定化と言えるでしょう。そこで何が起きたかというと、『徳』の失墜とも言うべき現象です。高等教育を受けて高度専門職に就くと高額の所得を得ますが、そのために不正が行われたり、貧困層への関心を失ったりする傾向が目立ち始めました。彼らの中には一部の市民をどこかで軽蔑している者もいる、とまで指摘する人もいます」

古書のうち半分は値段がつかない

2023年7月18日   岡本全勝

6月24日の読売新聞夕刊に「売れない古書 ノートに再生」が載っていました。

・・・ 長野県上田市の古書買い取り販売会社「バリューブックス」を訪ねた。棚に古書がぎっしり並ぶ。倉庫は市内に5か所。在庫は150万冊ほどあるそうだ。
売り主はインターネットで買い取りを申し込み、古書を箱に詰めて送る。届いたものを同社が査定し、代金を振り込むシステムだ。
同社副社長の中村和義さん(39)によると、1日約2万冊届くうち、半分の約1万冊は値段がつかないという。それらの多くは古紙として回収され、ざら紙や段ボール、ペーパータオルなどに再生される。
回収を待つ本のコンテナをのぞくと、ベストセラーだった書籍も交じっていた。「人気があった本は、古書の市場にもたくさん出回るので、値段がつかないことも多いのです」と中村さん・・・

私も本を買うときに、バリューブックスを時々利用しています。我が家にある古本を売ろうかとも考えているのですが。引き取った本のうち半分が売れないとは。