年別アーカイブ:2023年

ウクライナ、民主主義は建国以来の平等と「成り行き」背景に

2023年8月2日   岡本全勝

7月19日の朝日新聞オピニオン欄、セルヒー・プロヒー米ハーバード大学ウクライナ研究所長へのインタビュー「民主主義は建国以来の平等と「成り行き」背景に」から。この発言に、納得します。多くの政策選択において、時には憲法体制の選択でも、長期間の慎重な議論を経て作り上げたのではなく、その場その場の成り行きで決まったことが多いのです。

――なぜロシアや他の国と違って、ウクライナは民主主義に進んだのでしょうか。
「その謎を解くには、歴史をさかのぼる必要があります。ウクライナの建国神話は、近世のコサックの存在抜きには考えられません。ウクライナ国歌でも『我らはコサックの一族だ』とうたわれるほどです。コサック社会は、平等と民主的手法に基づいていたと言い伝えられます。このような認識が、現代の民主的な社会を築く意識を支えたといえます」

「ウクライナは、ロシア帝国やハプスブルク帝国など外部の大国に分断された歴史を持ちます。地域によって発展の形式も度合いも異なり、他を制圧するほど力を誇る地域も存在しない。これらの多様な地域が集まって独立国としてやっていくには、民主的な政府が最も機能しやすかった、という面もあります」

「この状況は、18世紀建国時の米国と極めて似ています。全体を支配下に収めるほど有力な州がなく、結束を保つ手段として妥協と民主主義が使われたのです」

――つまり、ウクライナも米国も、市民が闘争の末に民主主義を勝ち取ったというより、民主主義が最も都合のいい手法だったと。
「いわば『成り行き民主主義』ですね。ただ、成り行きで成立した民主主義は、意図して選んだ民主主義よりも、しばしばうまくいきます。逆に、無理して民主主義を選んでもなかなか機能しない地方が、世界にはありますし」

省庁改革本部減量班同窓会25年

2023年8月1日   岡本全勝

先日、省庁改革本部減量班の同窓会をしました。
2001年に実施された省庁改革の作業のために、私たちが事務局に集められたのは、1998年6月でした。今年は25年です。よく続いているものです。「20年の記事

ちょうどアフリカから一時帰国中の大使、イギリス勤務を終えて帰国した官僚、熊本や大阪勤務から帰ってきた人、すでに第二の職場にいる人などなど。都合がつかない人以外が集まりました。
皆さんそれぞれに歳を取っていますが、元気で活躍中です。

毎年変わる目玉政策

2023年8月1日   岡本全勝

7月20日の日経新聞に、「予算特別枠、まるで猫の目」が載っていました。

・・・財務省は2024年度予算の概算要求で、賃上げや脱炭素といった「新しい資本主義」を推進する特別枠を設けて各府省庁から計4兆円超の要求を募る。政府は特定の施策に重点配分するため同様の手法を繰り返してきた。メリハリをつけやすいのは利点だが政権の看板政策の一貫性に欠ける弊害もつきまとう・・・
・・・看板政策を対象に裁量的経費の削減分以上の予算要求を認める手法は恒例となっている。概算要求基準で歳出総額の上限を示さなくなった14年度以降でみると、新型コロナウイルス感染症対策に追われた21年度予算を除くすべての年度で特別枠を設けた。10年間の累計で40兆円規模に及ぶ。

安倍晋三政権下では防災や地方創生、働き方改革や一億総活躍社会の実現、中小企業の生産性向上などが対象となった。菅義偉政権ではコロナ禍を踏まえたデジタル化や脱炭素を掲げた。岸田文雄政権では経済安全保障や少子化対策、防衛力の強化も加わった。
予算編成に政権の意向や技術革新が反映されるのは自然だが、重点施策は「猫の目」のように次々と変わる。重点分野が定まらず長期的な視野で経済成長を促す視点は乏しくなる。与党からは特別枠の対象を増やすよう求める声も強く、総花的になってもいる・・・

記事には、2014年度以降の主な重点政策が、表になって載っています。見てください。懐かしい政策(?)も並んでいます。社会の変化に対応するため、重点政策が変わることは悪いことではありません。しかし、中長期の重点政策、あるいは各政策を統合した政策体系を示して欲しいのです。この点は、連載「公共を創る」でも指摘しています。

権力を預かる畏れ

2023年7月31日   岡本全勝

あるところで、公私混同について聞かれました。発端は、岸田首相の長男で首相秘書官が、昨年末に首相公邸で親族らと忘年会を開いていたことが今年5月に発覚したことです。その後、首相秘書官を辞任しました。
首相公邸には、首相家族が暮らす私的な場所と、公務に使う公的な場所(会議室など)があります。私的な場所は公務員宿舎と同じですから、非常識な使い方以外は自由です。他方で公的場所は官邸の延長ですから、使用目的は限られ、使うには手続きも必要です。
今回の事件も、公的な場所を使って私的な忘年会をしていた、ふざけた写真を撮っていたことが問題になったのでしょう。首相が公的な忘年会をされたのなら、問題はなかったでしょう。

権力を預かる人たちには、庶民より厳しい倫理観が要求されます。国民から疑惑を持たれないことです。国民の信頼がなければ、何を説いても信用されません。
そのような目で見ると、より問題の大きな事案もあり得ます。持っている権力を、公正・公平に行使しないことです。
例えば、補助金のか所付けや許認可です。客観的基準に基づいて優先順位の高い場所から補助金をつける、申請を採択するべきですが、それを無視して特定の人の申請を優先する場合です。
もう一つは、人事です。候補者の能力や適性を無視して、気に入った人を優先し、気に入らない人を遠ざける場合です。

政策の策定は公の場で議論されるので、よほどのことがない限り、私的な好き嫌いは入る余地がありません。しかし、政策の執行や人事権の行使では、すべてが公開されているわけではないので、私的な意向が入る余地があるのです。
そのような誘惑に惑わされないことが、権力を持つ人やその周囲にいる人には要請されます。一言で言うと「権力を預かる畏れ」でしょう。
さらに、権力を持つ人は、その一言が周囲に大きな影響を与えます。本人はそのつもりはなくても、周囲が忖度するのです。綸言汗の如し。

産業政策の復活

2023年7月31日   岡本全勝

7月16日の読売新聞1面、伊藤元重・東大名誉教授の「産業政策の復活「市場の失敗」是正し成長」から。

・・・主要国が先端技術分野の支援や気候変動対応の促進など、大規模な産業政策を展開している。
米国は、半導体の国内開発・生産を推進する「CHIPS・科学法」による7兆円超の投資支援を実施しつつある。さらに、インフレ抑制法に基づいて、気候変動対応などに10年間で60兆円規模の補助を行おうとしている。
 一方、欧州連合(EU)も新型コロナウイルス禍で打撃を受けた経済の「復興パッケージ」として、グリーン化やデジタル化などに300兆円規模の予算を準備している。
こうした大規模な産業政策の背景には、ポストコロナ時代に経済成長を実現することへの意気込みと、地政学的リスクへの対応があるのは明らかだ・・・

・・・主要国では少し前まで、民間の活動に政府は関与すべきではないとする考え方が主流のように見えた。しかし近年は、政府が財政や税制などを使って民間の経済活動を支援する「産業政策」の復活が目に付く。なぜ、こうした流れになったのだろうか。
気候変動対応で、政府による市場への介入が必要であることは論をまたない。地球温暖化は壮大な規模の「市場の失敗」だ。政府が何らかの介入を行わない限り、正しい資源配分を実現するのは難しい・・・

・・・気候変動対応のための産業政策は良いとしても、半導体のような先端分野で同様の政策を行う正当性はあるのだろうか・・・
・・・政府の介入は、気候変動対応では正当化できそうだが、半導体の場合は意見が分かれる。日本企業、あるいは日本国内での開発・生産を拡大させなくても、米韓台から輸入すればいいとの見方もあるからだ。かつての日米半導体摩擦で、米国は、日本政府による過度な国内支援が公正な競争を妨げていると批判した。
ただ、最近はそうした見方に変化が起きている。半導体そのものの重要性がこれまで以上に高まっていることに加え、地政学的な理由から国内で半導体産業を維持する必要性が増しているためである。
さらに、半導体分野で国境を超えたグローバルな分業が広がっていることも、産業政策のあり方を変化させた。日本の産業政策によって日本国内での活動を拡大できるのは、日本企業にとどまらない。米国や台湾の企業も産業政策の恩恵を受けるのだ。
いずれにせよ、技術革新や「規模の経済」が強く働く半導体のような産業で、どこまで産業政策によるテコ入れが正当化できるか、古くから議論の対象となってきた。産業政策はうまく機能するとは限らない。市場の失敗と同じように、政府の失敗もある。

とはいえ、技術革新の動向や半導体の重要性、地政学的な問題などを考え合わせると、政策的な関与による失敗よりも、市場に委ねることによる失敗の方が、可能性は高そうだ。
すでに述べた通り、日本経済が30年停滞した大きな要因は、民間投資の弱さである。これがマクロ経済の需要不足を生み、デフレの原因となった。金融緩和策で需要を作ろうとしたものの、投資を増やすことはできなかった。
投資の貧弱さは供給サイドにも影響した。生産性の伸びは緩やかで、生産能力の拡大も鈍かった。規制緩和や成長戦略は力不足で、コロナ禍での財政出動も、危機対応の一時的なカンフル剤にとどまった。
政府による財政出動が必要だとしても、それは最終的に民間投資を促す政策でなくてはならない。政府の産業政策には、そうした効果が期待できる・・・

経済への政府の介入の変化は、連載「公共を創る」第132回、133回で取り上げました。