佐藤俊樹著『社会学の新地平』

佐藤俊樹著『社会学の新地平 ウェーバーからルーマンへ』(2013年11月、岩波新書)を紹介します。

書名を見たときは、これからの社会学について論じたものかと思いましたが、内容は副題の「ウェーバーからルーマンへ」です。岩波のホームページの「マックス・ウェーバーとニクラス・ルーマン―産業社会の謎に挑んだふたりの社会学の巨人。彼らが遺した知的遺産を読み解く」が良く表しています。さらに言えば、「近代の合理的組織を生んだ資本主義の精神とは何かを読み解く」でしょうか。

佐藤先生はいつも切れ味が良いのですが奥深く、この本も岩波新書にしては少々難しい本です。
私の理解では、前半は
・ウェーバーの「資本主義の精神」とは何かの、謎解き
・これまでの日本の学会でのウェーバーの「誤読」を暴く
でしょうか。ウェーバーの親族の会社から読み解くのは、推理小説のようでした。

そのような「謎解き」を経るのですが、私はこの本を読んで、ようやく資本主義の精神や合理的組織が理解できました。
ウェーバーの書名は「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」です。プロテスタントの倫理が近代資本主義を生んだとは主張していないのですね。私たちは、そのように理解してきましたが。「資本主義の精神」について、私も十分に理解できていませんでした。佐藤先生によると、ウェーバー自身も答えにたどり着かないままだった、それが後世の誤読を招いたようです。

勤勉の倫理なら、江戸時代の日本や中国にもありました。そして、よく機能する官僚組織もありました。しかし日本も中国も、資本主義経済や合理的組織を生み出しませんでした。
他方で、かつて私が抱いた疑問はこのほかに、禁欲が資本主義経済を生んだという点もあります。みんなで倹約して貯金をしたら、経済は拡大しません。近代経済学では常識のことです。どうみても、プロテスタントの禁欲倫理が資本主義経済の発展を生んだとは思えないのです。読んでいて、何か奇術を見ているようでした。資本主義経済のためには、近代組織の合理性が重要なのです。

ルーマンによる、官僚制の階統制も意思決定の連鎖であるとの説明も納得です。官僚制の中で生きてきた人間としても、目から鱗でした。専門家の間では常識なのかもしれませんが。