つながり・支え合いのある地域共生社会

孤独感、若い世代で強い」の続きです。令和5年版厚生労働白書の主題は、「つながり・支え合いのある地域共生社会」です。「概要版」がわかりやすいです。いくつか抜粋します。

●単身世帯の増加、新型コロナウイルス感染症の影響による、人々の交流の希薄化などを背景として複雑化・複合化する課題、制度の狭間にある課題(ひきこもりやヤングケアラーなど)が顕在化。
●こうした課題に対して、これまでの「つながり・支え合い」の概念は拡がりをみせており、ポストコロナの令和の時代に求められる新たな「つながり・支え合い」の在り方を提示。これにより、人々がつながりを持ちながら安心して生活を送ることのできる「地域共生社会」を実現する。

・世代や属性を超えて、様々な人が交差する「居場所」づくり
・「属性(高齢・障害など)」別から「属性を問わない」支援へ
・支援の申請を待つ「受動型」から「能動型」支援へ(アウトリーチ)
・暮らしの基盤である「住まい」から始まる支援
・デジタルを活用し時間や空間を超えた新たな「つながり・支え合い」の創造

厚生労働省が、ここまで変身しました。社会保障だけでは、困っている人の助け・支えにならないのです。私が連載「公共を創る」で訴えている「社会の不安が変化している」「行政の役割も変わっている」ことに、応えてくれています。

かつてこのような暮らしの問題は、内閣府の国民生活局が扱い、「国民生活白書」で取り上げていました。そして第一次安倍内閣が掲げた再チャレンジ政策で取り組んだのですが、その後は大きく扱われることがありませんでした(このホームページでは「再チャレンジ」という分類を作り、このページもそこに入れてあります)。
孤独・孤立がさらに進み、社会の不安が国民の間に認識されるようになったのだと思います。子ども食堂の広がりも、その一つです。

連載「公共を創る」第159回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第159回「官僚の失敗─官僚機構の機能不全」が、発行されました。

前回まで、官僚を巡る問題の概要や背景を説明してきました。次に、「官僚の失敗」といわれるものを分析します。官僚批判にはいろいろなものがありますが、大きく分けると3つに分類できます。
決裁文書改ざんなどは、仕事ぶりが適正かどうかという問題です。セクハラなどは、人としての立ち居振る舞いの問題です。そして3つめが、官僚機構の機能不全です。

官僚組織の失敗例として、原発事故、公害、薬害事件、不良債権処理、年金記録問題、統計偽装を取り上げました。
若い人は、話に聞いたことはあっても、詳しくは知らないでしょうね。その時々は大きな話題になっても、それらをきちんと記録し分析した本がないのです。しかし、失敗に学ぶことは重要です。関係者は話したくないでしょうから、誰がどのようにして分析し、記録として残すかです。

コロナ対策、飲食店冷遇

8月6日の読売新聞文化欄「コロナの時代を読む」、苅部直東大教授の「飲食店冷遇 苦い記憶」から。

・・・結果から言えば、日本は高齢者が多いにもかかわらず、人口あたりの死者が少なかった。政府や、医療機関、高齢者施設が頑張ったと言えます。市民の努力もあった。マスクを着け、多くの人が在宅勤務に切りかえました。
いちおうそう評価した上で問題を挙げるなら、飲食店を明らかに締め付け過ぎました。ウイルスの性質がまだわからず、ワクチンができるかどうかも不明だった時期はしかたがないとしても、その後まで営業を規制し続けた。午後8時までの時短営業の時期に、お店に行ったら、かえって混んでいて「密」になっていましたね。

『日本の水商売』を書かれた法哲学者の谷口功一さんは、コロナ下で、日本各地のスナックを中心に夜の街を取材しました。その終章で、個人にとって重要な「営業の自由」などの経済的自由が、あまりに軽視されていると問題提起しています。メディアは「表現の自由」には敏感ですが、飲食店の営業権の問題には冷たかった。個人が店を円滑に営業できることだって、基本的な権利として守られるべきなのに、低く見られている。人間の権利とは何かについて、真剣に考えてきたかが問われていると思います・・・

・・・ロックダウンをせず、自粛などの「要請」にとどめたのが日本型のコロナ対策でした。でもそのせいで補償が不十分になりました。行政の側は、とにかく何か「やってる感」を出さなければいけなかったのでしょう。その手段として飲食店と夜の街を槍玉にあげたのは筋が悪かった。
行政では最近、結果がきちんと出ているかを数値で検証して、政策の善し悪しを測ることがはやっています。その発想は大事ですが、数字に表れる効果がすべてではないし、長期的な意義はそうした検証では測れない。限界のある発想であることに気づかないまま、それに依拠していると、「悪い結果を出したくない」という消極的な判断にばかり向かってしまう。その結果、一部の人からの批判を過剰に恐れ、飲食店をはじめとする大多数の人たちが迷惑を被るという、おかしなことになっています・・・

コメントライナー寄稿第13回

時事通信社「コメントライナー」への寄稿、第13回「マイナカード問題と組織管理」が8月10日に配信され、15日のiJAMPにも転載されました。また時事総研のHPにも掲載されて、これは無料で読むことができます。

マイナンバーカード交付を巡る混乱が問題になっています。政府は行政の電子化を進めるために交付を急ぎましたが、他人の情報を登録するなどの多くの間違いが発生しています。この問題を、東日本大震災での被災者支援や、新型コロナウイルス対策と比べてみました。これらは、政策の実施過程として見ると、新しい課題への取り組みであること、政府を挙げて対応するため本部組織が作られたこと、広範な国民を対象とすることなどが共通しています。

問題の原因を、3つ上げました。
1つめは、本部組織での現場感覚の欠如です。新型コロナウイルス対策では、当初自治体に膨大な指示が出て混乱が生じましたが、自治体を知る総務省幹部が地方との連携を担うことになって円滑に進みました。
2つめは、本部組織の社風の問題です。各省庁や民間から集められた混成部隊の職員をどのようにして能力を発揮させるかです。
3つめは、幹部職員の人選です。組織の全体を把握し、首相官邸や大臣と意思疎通する人が必要です。