ひどい上司と憎めない部下と

先日、30数年前に一緒に働いた後輩2人と、久しぶりに意見交換会をしました。当時、私は30代半ばの自治省財政局交付税課課長補佐で、2人はまだ20代半ばで係長とその手前でした。その頃の思い出話で、盛り上がりました(この頃の話は、何度か書いたことがありますが、あらためて)。

この頃の私の仕事ぶりは省内でも鳴り響いていて、この2人も周囲から「岡本補佐に仕えて、大変だね」と、ねぎらいの言葉をかけてもらっていたとのことです。
土曜日の朝に彼らに指示を出し、月曜日朝にできていないと「昨日休んだやろ」と言ったとか。もちろん笑いながらですよ。月曜午後には、「まだできてないの。昼飯食っただろう」と言ったとか。
上司以上に彼らは大物で、「まだですよ~」と、笑って受け流していました。

2人は素質もあり、将来の幹部に育てるために、他の人より重い負荷をかけたのです。もちろん、彼らの疲労度を勘案してです。私も彼らの職位のとき、しょっちゅう泊まり込んだ経験がありますから、「無理の程度」はわかっています。彼らに聞くと、「明け方までは仕事をしたけれど、家には帰りました」とのこと。
24時間戦えますか~ビジネスマン、ビジネスマン~」という栄養剤の宣伝が流行ったのは、昭和63年です。「そんなこと、できっこないわ」と、私は自分の経験で思っていました。1日か2日はできるとしても、生産性は落ちるし、長続きはしません。

当時は週休2日に移行する時期でしたが、忙しい時期の私には休日という概念はなかったです。ただし季節労働者で、暇なときもありました。そうでないと、体が持ちません。私は休日出勤はしましたが、平日は早く帰るようにしました。
と言っても、意見交換会に出かけていたのです。部下にとって、「上司元気で留守が良い」を理解していたので。もう一つの栄養剤の宣伝、高田純次さんの「5時から男」を実践していました(笑い)。私が退庁してから、彼らが盛り上がっていた話は、次回にします。

次のようなやりとりも、有名でした。
私が彼らに指示を出す際に「私は忙しい。返事は簡潔にせよ。しかし私は民主的だから、押しつけはしない。次の2つの答えの中から選んで良い。一つは『はい』だ、もう一つは『わかりました』だ」と言ったとか。
部下の一人は「はいはいはい~、わかりましたよ~」と、グレながら返事をしていました。私が許した選択肢を逸脱してはいないのですが、不服従をきっぱりと顔に出していました。
この話には、後日談があります。私が交付税課を離れて数年後に、後輩から聞きました。「全勝さん、最近は選択肢がもう一つ増えたんです」と。で「3つめは何?」と聞くと、「喜んで」ですと笑いながら教えてくれました。ある飲食店で、注文を聞いた店員が客に答える際の言葉だそうです。
ここだけ読めば、ブラック職場に見えますね。

テレワーク実施率16%

8月8日の朝日新聞に「大企業、テレワーク22% 半年前から11ポイント急減」が載っていました。

・・・日本生産性本部が7日発表した調査で、働く人のテレワークの実施率が15・5%と新型コロナ禍以降で最低になった。半年前の前回調査の16・8%から低下し、最も高かった初回調査(2020年5月)の31・5%と比べると半分以下の水準になった。特に大企業の低下が目立ち、前回調査から10ポイント以上急減した。
調査は今回が13回目。国内で企業などに雇用されている20歳以上の1100人を対象に、7月10~11日にインターネットで行った。

どんな働き方をしているかを複数回答で尋ねた項目で、自宅やカフェなどでのテレワークを活用していると答えた人は従業員1001人以上の大企業で22・7%。101~1千人の企業では15・5%、それ以下の企業では12・8%となった。
大企業の数字は半年前の前回調査(34%)から11・3ポイント急減し、全体の実施率を押し下げた。日本生産性本部によると、政府が今年5月に新型コロナの感染症法上の位置づけを「5類」に移行したことを受け、コロナへの一時的な対応としてテレワークを採り入れていた企業で出社を求める動きが活発になっているという・・・

「オッカムの剃刀」

ジョンジョー・マクファデン著『世界はシンプルなほど正しい 「オッカムの剃刀」はいかに今日の科学をつくったか』(2023年、光文社)を読みました。大分前に読み終えたのですが、どのように紹介するのがよいか悩んでいるうちに、時間が経ちました。

出版社の宣伝には、次のようにあります。
「よりシンプルな答えこそ好ましく、往々にしてそれは正しい――複雑さや冗長さを容赦なく削ぎ落とすさまから「オッカムの剃刀」と呼ばれるこの思考の方針は、科学を宗教の支配から解放し、地動説、量子力学、DNAの発見など、多くの科学的偉業を支えることとなった。本書は科学の発展史を辿りつつ、単純さこそが、宇宙や生命の誕生といった深遠な謎を解き明かす鍵であることを示す壮大な試みである。そしてすべては、中世の果敢な神学者の冒険から始まる」

西洋科学史の概説書、それを「より簡単に説明する方向に進んだ」という視点から説明した本、といったら良いのでしょうか。重力による地上と天空の運動の統一、電磁力による磁気と電気の統一、遺伝子(二重らせん)による分子と生物学の統一など、なるほどと思いつつ。結果としてみると、オッカムの剃刀なのですが、それぞれの科学者はそれを意識していたかというと、そうでもなさそうです。

科学の進歩を認めつつ、最も簡単な説明は「神様が作られた」という説です。

警察の縦割り弊害解消

8月5日の読売新聞解説欄に「警察の縦割り 弊害解消へ 運営新指針を公表」が載っていました。

・・・警察庁が7月、都道府県警に対し、組織運営の新たな指針を示した。SNSの「闇バイト」対策などを盛り込んだ。昨年7月の安倍晋三・元首相銃撃事件をきっかけに、問題となった要人警護だけでなく、全ての部門で社会情勢の変化に応じた見直しを進めていく方針だ。

警察庁が全部門にわたり具体的な業務内容を示して都道府県警に組織運営の指針を示すのは初めてだという。警察庁の露木康浩長官は7月6日の記者会見で「情勢の変化と組織の現状を分析し、警察力の最適化を図る」と説明した。
安倍元首相銃撃事件では、都道府県警が作成する警護計画を警察庁がチェックする仕組みになっていないなど、「安易な前例踏襲」が明らかになった。警察業務は元々、パトロールや交通取り締まりなど日々の繰り返しが多い。各部門で同様の前例踏襲による弊害が生じていないか――そうした問題意識で、指針が策定された。
新指針は、〈1〉部門を超えた人的資源の重点配置〈2〉能率的な組織運営〈3〉先端技術の活用〈4〉働きやすい職場環境――からなる。

このうち〈1〉では、組織内に残る「縦割り」による弊害の解消に重点を置いている。
都道府県警ではこれまで刑事、生活安全、警備、交通など部門ごとに課題に対処してきた。殺人が起きれば刑事部門が捜査を行い、防犯対策は生活安全部門が担う。テロであれば警備部門の担当だ。
だが近年、SNSの普及や暗号資産、ドローン、AI(人工知能)といった技術の発展によって社会が大きく変容し、縦割りでは対応しきれない事象が増えている。
例えば、SNSで強盗や特殊詐欺などの実行役を募る「闇バイト」では、互いに名前も知らない者同士がSNSでつながり、事件ごとにメンバーを替えながら犯罪を繰り返す。組織犯罪の側面を持ちつつも、暴力団など旧来の犯罪組織とは明らかに異なる。
各地の警察には犯罪集団の解明に当たる組織犯罪対策部門があるが、闇バイトについてはこれまで捜査は刑事部門、SNS対策はサイバーを担当する生活安全部門などとバラバラに対処してきた。
そこで、新指針ではSNSなど緩やかな結び付きで離合集散を繰り返す集団を「匿名・流動型犯罪グループ」と定義し、組織の解明と捜査を担う専従班を都道府県警に設置する。部門をまたいで捜査に参加し、闇バイト犯罪の撲滅を目指す。

組織に属さずにテロをもくろむ「ローン・オフェンダー(単独の攻撃者)」についても、部門間の連携を強化する。刑事部門の捜査や、地域部門の巡回などを通じて危険性のある人物の情報を入手した場合に、警備公安部門に集約する仕組みを取り入れる。
警察庁幹部は「闇バイトやローン・オフェンダーによる脅威は国民の『体感治安』の悪化に直結している。全部門の人員を活用して対策に取り組む」と話す・・・

市町村アカデミーの講義から

市町村職員中央研修所(市町村アカデミー)では、機関誌を年4回発行しています。研修所で行われた講義の概要なども載っています。『アカデミア令和5年夏号』(第146号7月20日発行)から、勉強になる講義を紹介します。

中村玲子・個人情報保護委員会委員の「改正個人情報保護法とマイナンバー法への地方公共団体における対応について」は、令和3年の法改正が令和5年4月から地方自治体にも適用されることになったことを説明しています。

津田広和・特定非営利活動法人PolicyGarage 代表理事の「ナッジを活用した政策形成」は、ナッジ(望ましい行動をそっと後押しする工夫)の普及を進めている活動の説明です。