権力を預かる畏れ

あるところで、公私混同について聞かれました。発端は、岸田首相の長男で首相秘書官が、昨年末に首相公邸で親族らと忘年会を開いていたことが今年5月に発覚したことです。その後、首相秘書官を辞任しました。
首相公邸には、首相家族が暮らす私的な場所と、公務に使う公的な場所(会議室など)があります。私的な場所は公務員宿舎と同じですから、非常識な使い方以外は自由です。他方で公的場所は官邸の延長ですから、使用目的は限られ、使うには手続きも必要です。
今回の事件も、公的な場所を使って私的な忘年会をしていた、ふざけた写真を撮っていたことが問題になったのでしょう。首相が公的な忘年会をされたのなら、問題はなかったでしょう。

権力を預かる人たちには、庶民より厳しい倫理観が要求されます。国民から疑惑を持たれないことです。国民の信頼がなければ、何を説いても信用されません。
そのような目で見ると、より問題の大きな事案もあり得ます。持っている権力を、公正・公平に行使しないことです。
例えば、補助金のか所付けや許認可です。客観的基準に基づいて優先順位の高い場所から補助金をつける、申請を採択するべきですが、それを無視して特定の人の申請を優先する場合です。
もう一つは、人事です。候補者の能力や適性を無視して、気に入った人を優先し、気に入らない人を遠ざける場合です。

政策の策定は公の場で議論されるので、よほどのことがない限り、私的な好き嫌いは入る余地がありません。しかし、政策の執行や人事権の行使では、すべてが公開されているわけではないので、私的な意向が入る余地があるのです。
そのような誘惑に惑わされないことが、権力を持つ人やその周囲にいる人には要請されます。一言で言うと「権力を預かる畏れ」でしょう。
さらに、権力を持つ人は、その一言が周囲に大きな影響を与えます。本人はそのつもりはなくても、周囲が忖度するのです。綸言汗の如し。