朝日新聞くらし欄は、5月21日から「定年クライシス、居場所はどこに」を連載しました。
21日の「「週3日は外に出て」妻は言った」から
・・・「昼ご飯、作りたくない」
滋賀県に住む70代の男性は、妻の言葉に驚いた。60歳で定年を迎えた後、雇用延長で66歳まで働き、退職してから間もないころだった。
専業主婦の妻は、自身の昼ご飯を前夜の残り物やパンで済ませることが多かった。3食分を作るのは、めんどくさいのだろう。「しょうがない」。そう思った。
妻は、続けて言った。「週に3日は外に出てほしい」
こちらは「きつい話だ」と思った。でも、けんかをしても仕方がない。できるだけ外に出るようにした。コンビニで昼食用のおにぎりを2個買い、電車で京都へ。京都御苑や植物園、寺や公園のベンチで昼食をとった。電車賃がかかるから、昼食代は節約せざるを得なかった。
「週3日のノルマ」はきつかった。地域活動や仕事を探しても、趣味に合わなかったり、場所が遠かったり。活動回数が少ないものもあった。最低週1回は活動しないと予定は埋まらない。次第に探す気持ちさえ起きなくなった・・・
24日、加藤伊都子・フェミニストカウンセラーの発言から。
・・・夫の定年後、心身が不調になった女性をカウンセリングしてきました。血圧などの数値の悪化や、自己免疫疾患、うつ症状に陥る人もいます。
世代的に妻は主婦という世帯が多く、お金を自由にできず、自己肯定感が低いなど、妻は弱い立場に置かれがちです。夫婦の上下関係を背景に、夫の在宅がストレスになってしまう。定年は関係性のひずみを顕在化させます・・・
・・・男性の中には「ふんぞり返ってきたつもりはない」という人もいるでしょう。でも外出の際、妻は見送ってくれても、自分が見送ったことはありましたか。無自覚に妻からのケアやサービスを享受してきた面はないでしょうか・・・
原沢修一・キャリアコンサルタントの発言から。
・・・ 定年を機に右往左往する男性と、ぎくしゃくしがちな夫婦関係を見つめてきました。
夫の定年を機にうつ状態になった2人の女性を知っています。1人は、外出しようとするたび、夫が「どこへいくんだ」「おれの夕飯は」と質問攻めにする。もう1人の夫は「時計が遅れている」「トイレの紙がない」と延々ダメ出しして、自分は何もしない。
外で働いてきた男性たちは、家事や育児の大変さを理解せず、妻を長く下に見てきたのではないでしょうか。
象徴的なのは「ありがとう」「ごめんなさい」を素直に言えないこと。上司には抵抗なく謝罪できるのに、妻にはできない・・・