5月17日の朝日新聞オピニオン欄「生煮えの防衛論議」、黒江哲郎・元防衛事務次官の「国守る覚悟で、具体的な対案を」から。
――防衛論議が生煮えだと思いませんか。
「議論が深められたかといえば、必ずしも深められていないと思います。残念です」
――残念とは。
「国家安全保障戦略の見直しは、1年前に岸田文雄首相が明らかにしていて、国会議員もメディアもわかっていた話です。政府のヒアリングもあって、論点や意見が公表されています。反対なら反対で、考え方をまとめ、論拠を示して議論すればいい。それなのに、国会では『政府が何も答えない』というところで議論が止まっている。これは非常に残念です。この国際情勢でどうやって国を守るのか。具体的な対案を示さなければ議論が成り立ちません」
――対案を出す前提として、情報提供が不十分なのでは。
「私は十分だと思います。当然、秘密は出せませんが、公表できる情報は出しているし、説明もしている。そもそも野党の一部は、本格的な議論をする気がないんじゃないですか。質問だけして、『政府が悪い』という印象づけをしている。政策論議になっていません」
――賛否はともあれ、具体的な議論をしてほしい、と。
「防衛力強化への反対論には『では、どうするんですか』と聞いてみたいんです。かねて、日本の防衛論議は『分断』の典型で、交わらない前提で批判されることが多い。いくら説明しても聞いてもらえず、むなしくなります。防衛費も増やさず、反撃能力も持たずに、どうやって国を守るんですか。本当に対案があるなら、教えてほしい。きちんと論証し、議論を深めてもらいたいと思います」