選挙を伴う権威主義

5月10日の朝日新聞夕刊、東島雅昌・東京大学准教授の「権威主義の国、民主主義の国 現実の政治は何色か」から。

・・・一方において、独裁政治の特徴は近年大きく変化している。スターリンやヒトラー、毛沢東といった歴史上の独裁者たちは暴力と抑圧を用いて体制の力を誇示した。対照的に、シンガポールのリー・クアンユー、ベネズエラのチャベス、カザフスタンのナザルバエフなど現代の独裁者たちは、利益誘導によって人々の「自発的支持」を取り付け、選挙ルールを戦略的に変更して自らの望む選挙結果を得るなど、剥き出しの暴力と不正にできる限り依存しない統治手法をとる。権威主義も民主主義を装うようになっているのだ。

 他方、長らく安定した民主主義であった国々でポピュリスト政治家が台頭し、人々の権利や自由が脅かされている。政治指導者の横暴を抑止する権力の抑制と均衡の仕組みは、一部のエリートの既得権益を守り、「真の民意」を損なうものだと攻撃される。党派の異なる支持者たちの暴力的対立も起きている。

 公正で自由な選挙は現代民主主義の基礎であり、それが独裁制と民主制を分ける試金石だ。しかし、このことをもって、「抑圧=権威主義、自由=民主主義」という図式で世界を色分けすることはできない。「民主主義陣営」と「権威主義陣営」の二項対立が取り沙汰される今、我々が予断を排して現実の政治を観察する必要性は、これまでになく高まっている・・・