プロの経営者のいない日本

1月13日の日経新聞経済教室、久保克行・早稲田大学教授の「企業トップのスキルを問う 経営者の市場を確立せよ」から。

・・・まず、当然のことながら上場企業の経営者には、経営陣に参画する時点で実質的な経営スキルを保有していることが求められる。「実質的な経営スキルを保有している」ということの解釈は様々だが、一つの考え方は、過去に企業経営の経験があるかどうかだろう。
現在の大企業トップは、難易度の高い多くの意思決定が求められる。ふさわしい経験や能力を持つ人が経営者に就くことは、その企業だけではなく社会的にも望ましいといえよう。
ここで疑問が浮かぶ。そもそも日本の経営者は就任前に経営者としてのトレーニングをどの程度受けているのか、言い換えると経営スキルをどの程度保有しているのだろうか・・・

・・・図は2つの指標を示している。一つは「資本関係のない他の上場企業で経営の経験がある経営者」の割合、もう一つは、「資本関係の有無を問わず他の上場企業で経営の経験がある経営者」の割合である。前者が真の意味で経営のプロフェッショナルを示す指標と考えられる。なお、ここでは社長・最高経営責任者(CEO)などの肩書を持つ役員を経営者とした。また非上場・海外企業での経営経験は集計から除外した。
結果は驚くべきものだった。一言で言うと、日本では狭い意味での経営のプロ、すなわち資本関係のない他の上場企業で経営の経験をした経営者によって経営される企業は、全くと言っていいほど存在しないということである・・・

・・・現時点で、経営者の労働市場が機能していない理由の一つは、諸外国と比較して日本の経営者が概して高齢であり、退職後も企業や団体の様々な役職に就いていることがある・・・

オンライン会議の機能と限界

先の日曜日の午前中、オンライン会議に参加しました。ある学術出版について、執筆者と編集者による打ち合わせです。私も、そのうちの1章を分担しています。
この企画が昨年春に始まって以来、様々なやりとりは、電子メールでの連絡と、オンライン会議を組み合わせて行われています。執筆の際の形式などそろえるべき要素は編者から指示があり、執筆者はそれに従って分担執筆します。とはいえ、進めていくうちに、相互に調整をとらなければならないこと、統一した方がよいことが出てきます。そのための、オンライン会議でした。
執筆者が20人を超えます。この人たちが集まるのは、かなり難しいことです。各地から集まるとなると、時間もかかります。それを考えると、自宅から参加できるのは、便利なものです。

参加して、便利なものだと思いつつ、違ったことを考えていました。
参加者は、著名な学者さんたちです。久しぶりにお目にかかる方や、初めてお目にかかる方もおられます。会議が始まる前に、簡単な挨拶はできるのですが、それ以上はできません。
集まっての会議の「効用」は、そのような人たちと挨拶を交わすこと、雑談ができることです。そして、気になっていることを相談したり。親しくなるということは、そういうことですよね。場合によっては、会議後に席を移して話すこと、食事に行くこともあります。

毎年秋にニューヨークで国連総会が開かれ、都合がつく限り総理が出席されます。ところで、総会では各国の代表が入れ替わり、それぞれ主張を述べるだけです。他の国の代表はほぼ出席しておらず、各国の外交官が座って聞いています。それはそれなりに意義はあるのですが、これがどれだけの効果があるのか疑問に思うこともあります。それだけなら、ビデオでの出席と同じです。
ところが、国連総会に各国首脳が出席する意義は、本会議だけではなく、その前後に開かれるいくつもの各国首脳同士の1対1の会議が重要です。これを個別に行おうとすると、日程の調整や各国間の移動など、大変な労力が必要になります。会合に集まるというのは、そのような付随機能があるのです。

安い日本の給料、管理職の給料

1月11日の日経新聞1面に「ファストリ、国内人件費15%増へ 年収最大4割上げ」が載っていました。記事に、外国比較が載っています。

・・・「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングは3月から国内従業員の年収を最大4割引き上げる。パートやアルバイトの時給の引き上げも既に実施しており、国内の人件費は約15%増える見込み。ファストリは現在、欧米を中心に海外従業員のほうが年収が高い。国内で大幅に賃金を見直すことで、グローバルな水準に近づける狙いがある。国際的な人材獲得競争で劣後する日本企業の賃金制度に影響を与えそうだ。
ァストリ本社やユニクロなどで働く国内約8400人を対象に、年収を数%から約40%引き上げる。新入社員の初任給は月25万5千円から30万円に、入社1~2年目で就任することが多い新人店長は29万円から39万円になる・・・

・・・東京商工リサーチによると、上場企業3213社の21年度の平均年間給与は605万円で、そのうち900万円以上は110社にとどまる。ファストリの国内で働く従業員平均給与は959万円と国内小売業でも最高水準にある。ただ、国内の総合商社や外資系企業などに比べ見劣りは否めない。海外企業の賃金と比較しても低水準にある。
日本企業の賃金は国際的に低い。人材コンサルティングの米マーサーによると、マネジャー級の年収は22年7~9月期の平均レートの1ドル=135円で算出した場合、日本は22年12月時点で9万6374ドルで前年比10%減った。米国(21万9976ドル)に比べ約半分の水準で、中国に比べても低い・・・

1月13日の朝日新聞には「日本の社長、給料低すぎ?」が載っていました。
・・・日本の社長報酬は、米欧と比べるとかなり低い。
コンサルティングのHRガバナンス・リーダーズが、時価総額の大きい100社を対象に21年の実績を調べたところ、日本の社長の報酬(中央値)は1億8千万円だったのに対し、トップの米国は27億1千万円。日米の差は15倍と、前年の10倍から広がった。欧州は日米の中間で、ドイツで6億2千万円だった。
 差を生んでいる要因の一つが、報酬の決め方の違いだ。日本は経営実績などに応じて変動する報酬が50%にとどまり、米国(94%)やドイツ(72%)より低い・・・

工作機械大手、DMG森精機の森雅彦社長の話が載っています。
・・・上場企業は年間報酬が1億円以上の役員の氏名と金額を公表しなければならないが、このルールをなくし、「多くても少なくても明らかにした方がいい」と言う。
公表されるのをいやがり、報酬を1億円未満にとどめる社長が少なくない、とみるからだ。かつての自身もそうだった。報酬を9千万円台に抑えていた時期がある。横並びを重んじる日本社会で、目立つのは得策ではなかった。
37歳の時に父親から会社を受け継いだオーナー経営者。当時は東証1部上場で最年少の社長だった。
2016年のドイツ企業との経営統合が転機となった。報酬が高いドイツ側の幹部から「自分だけ突出した額をもらうのは格好がつかない」として、日本側の役員の報酬も引き上げるよう求められたという。
森氏は17年度に初めて報酬を公表した。1億4800万円だった。21年度は2億9800万円を手にした。報酬を上げると、有能な外国人経営者を迎え入れやすくなった。部長職など幹部の給与も上げた。
「その人の責任やがんばりを、もっと報酬に反映した方がいい。メリハリのない公平性が、この30年間の日本経済の停滞を招いたのではないか」・・・

若手新聞記者への講義

今日は、ある新聞社に呼ばれて、若手記者の研修講師を務めてきました。記者が官庁を取材する際の心得と作法を、取材される側として話しました。

報道機関には、駆け出しの頃から「普通の」取材を受けていたのですが、30歳、鹿児島県県税務課長のときに、課税ミスで厳しい追及の「洗礼」を受けました。42歳、富山県総務部長のときは、談合事件やカラ出張不正で、何度もお詫びの記者会見をしました。
もちろん記者さんとのお付き合いは、お詫びばかりでなく、地方交付税の課題や地方分権改革、県の行政改革などでは、正しく取り上げてもらうべく、昼に夜に説明を行いました。総理秘書官や大震災復興のときも、記者さんとの対応にはかなりの時間を使いました。
「ここを聞いて欲しい」「こんな角度から書いてほしい」と思うこともたくさんありました。「お詫びの仕方・形も大切」「報道記者との付き合い方

公務員にとって、一般的には記者はやっかいな存在です。記者発表ものなら大きな問題はないのですが、そうでない取材には「聞かれたくないこと」もあります。
ところで、管理職研修に、「記者との付き合い方」は入っていないようです。私も、自己流で経験を積んできました。「明るい公務員講座 中級編」第15回に、「交渉 情報発信」を書きました(「明るい公務員講座」第4巻に載せる予定なのですが・・)。
そのようなことを踏まえて、期待を込めて、取材される側の手の内を明かしてきました。

政府統計の問題と対応策

1月13日の日経新聞オピニオン欄に、森川正之・一橋大学教授の「政府統計にも不可欠な「人への投資」」が載っていました。詳しくは原文を読んでいただくとして、次のような文章があります。

・・・近年、政府統計を巡る不適切な事案が相次いだ。この結果、一部の省庁ではリスク回避のため統計調査自体をやめる動きもあるようだ。間違いが起きると困るからやめるというのは本末転倒だが、その背後には政府部内における統計人員の削減がある・・・