政策転換の評価

12月7日の日経新聞経済教室「原発政策の行方」、橘川武郎・国際大学副学長の「現政権、「政策転換」には値せず」から。

8月のGX実行会議での岸田文雄首相と西村康稔経済産業相の原子力に関する発言を巡り、一部メディアが「原子力政策を転換した」と大きく報じた。。岸田政権が原子力政策の遅滞解消に向け年末までに政治決断が求められる項目として挙げたのは、(1)次世代革新炉の開発・建設(2)運転期間延長を含む既設原子力発電所の最大限活用――の2点だ。
特に注目されたのは(1)だ。「原発のリプレース(建て替え)・新増設はしない」という従来方針を転換し、次世代革新炉の建設に踏み込んだと評価された。

本当にそうなのか。結論から言えば、政策転換と判断するのは時期尚早だと考える。そう考える根拠としては、第1に誰(どの事業者)が、どこ(どの立地)で、何(どの炉型の革新炉)を建設するのかについて全く言及がない、第2に肝心の電気事業者の反応が冷ややかで、国内での次世代革新炉の建設について具体的な動きを示していない。
これまで政府がエネルギー政策を本気で転換した時には、それに先行して政策転換につながる電気事業者の具体的な動きがあった。
例えば2020年10月に菅義偉首相(当時)が50年までにカーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)をめざすと宣言した時は・・・
だが今回は様相が違う。次世代革新炉の建設といっても、それと共鳴する電気事業者の具体的な動きはない。三菱重工業が発表した次世代加圧水型軽水炉「SRZ-1200」の開発プロジェクトに関西電力など電力4社が協力することになったが、これはあくまで「開発」をめざすものであり「建設」までは視野に入れていない。実際に建設となれば中心的な当事者になるはずの関電の森望社長は最近のインタビューでも、既設の7基体制を将来にわたり維持すると述べるにとどまっている。
「誰が、どこで、何を」という具体的な言及がないのは、こうした事情を反映したものとみられる。