連載「公共を創る」第135回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第135回「「大きな政府」から「小さな政府」へー行政改革」が、発行されました。

第132回(10月13日号)から、政府による市場への新しい介入手法と、社会への介入手法が十分に整理されていないことを説明してきました。主たる政策が産業育成・公共サービス充実・インフラ整備から、国民の不安解消に転換すると、これまでの行政手法が十分に機能しなくなりました。モノやお金の提供、法律による規制は、国民の意識を変える・通念を変える・物質的でない悩みに答えるといった課題には効果が少ないのです。

このような議論を踏まえると、「政府の大きさ」は、「広さ」「深さ」「重さ」という切り口があります。また大きさとは別に「政府の強さ」という切り口もあります。

それらの具体例を見るとともに、行政の役割と手法の変化を見るために、行政改革の歴史を見ます。私は、戦後の行革を、第1期組織と人員膨張抑制の時代(1960年代)、第2期小さな政府を目指した時代(1980年代)、第3期仕組みの改革の時代(1990年代以降)に区分するとわかりやすいと考えています。その社会的背景が分かるように、図表をつけました。

補正予算額30兆円はトヨタ自動車の売上額と同じ

11月9日の朝日新聞夕刊に、千葉卓朗記者の「補正予算「30兆円超」 政治家の金銭感覚の先に」が載っていました。40歳を過ぎて経済部から政治部に配属された記者の感覚とのことです。「困る政治主導」の続きになります。

・・・だから、消費者物価の上昇率が3%の今の日本で「時給1兆円」というセリフを自民党幹部が口にしたと聞いた時、面食らった。10月下旬、物価高などに対応する政府の総合経済対策の予算規模をめぐり、数時間で4兆円上積みさせた成果を自賛した発言だ・・・
・・・ 30兆円といえば、私が経済部で担当したトヨタ自動車の売上高31兆円(22年3月期)と同じ規模。徹底したコスト削減と地域密着の販売努力を続け、世界中で車を1千万台近く売ってやっと得られる金額だ。従来、経済対策の相場は数兆円とされる中で30兆円を平然と求める感覚は、タガが外れていないだろうか・・・

関西大学で講義

今日11月17日は、関西大学で講義をしてきました。林宏昭先生のお招きで、毎年この時期に出講しています。表題は「大震災復興で考えた社会を支える3つの仕組み-行政、取引、助け合い」としました。大震災から早11年が経ち、学生たちは当時小学生でした。大震災のことも知って欲しいのですが、経済学の授業なので、自説の「官共業」がふさわしいと思い、こちらに重点を置いて話しました。

学生(林ゼミ、佐藤雅代ゼミ)の対面授業と、録画による視聴との組み合わせです。教室では、約50人の学生が熱心に聞いてくれました。質疑の時間にも素晴らしい質問が相次ぎ、充実した授業でした。

新設官庁での民間人登用

11月7日の日経新聞「My Purpose 政治を「じぶんごと」に」は、「令和生まれの官庁 新しい課題「解決型」で挑む」でした。
・・・デジタル庁、こども家庭庁、内閣感染症危機管理統括庁(仮称)――。元号が令和になって以降、新しい官庁の発足が相次ぐ。具体的な問題の解決を掲げた「ミッション志向」は、そこに活躍の場を見いだそうとする民間人材を引き寄せている・・・
内閣官房こども家庭庁設立準備室で参事官補佐を務める花房さんは保育大手ポピンズで働いていて、職員公募に手を上げて採用されました。総務省からデジタル庁立ち上げに関わった後、企業に転じた例も取り上げられています。

ここに見ることができるのは、職員の官民交流とともに、新官庁での民間出身者の採用です。デジタル庁、子ども家庭庁などは、明確な任務を持った組織です。そこでは、途中採用の人も明確な役割を与えられ、自分のしたいことやできることが明確でしょう。だから、転職しやすいと思います。
他方で、伝統的官庁での、職員の頻繁な人事異動、専門家を育てず何でもできる幹部を養成する仕組みが、技能を身に付けにくい、働きがいのない職場をつくっています。

そして、このような任務が明確な官庁がつくられることには、従来型の役所の分割が限界に来ているようにも思えます。先に「子ども政策、先行く自治体」で書いたことです。

京都府庁職員研修

今日11月16日は京都府庁で、管理職研修講師を務めました。表題は、「不祥事を起こさない組織づくり」です。これは、なかなか直截な話です。

不祥事が起きるたびに、お詫びの記者会見が行われ、「二度とこのようなことが起きないようにしてまいります」と決意が述べられます。しかし毎日のように、企業や役所の不祥事が報道されます。石川五右衛門の辞世の句と言われている「浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ」をもじれば、「浜の真砂は尽きるとも世に不祥事の種は尽きまじ」です。根絶は難しいのです。

対策は、原因別に考える必要があります。会社や役所の不祥事には、個人が起こすものと、組織が起こすものがあります。横領や情報漏洩は前者で、性能偽装や統計不正などは後者です。個人の犯罪や失敗を防ぐことと、組織の不正や失敗を防ぐ方法は異なります。また個人が起こす失敗や犯罪でも、それを引き起こすような社風やそれに気づかない上司の責任もあります。
そして、根絶できないとすると、起きた場合の対処を考えておく必要があります。私は不祥事が起きた際の記者会見では、かなりの経験を積みました。変な自慢です。「お詫びの仕方・形も大切

一般論をしても退屈でしょうから、実例と私の体験を元に生々しい話をしました。職員研修では、『明るい公務員講座』に書いたように私の失敗を話すのですが、不正や失敗の防止、起きた場合の対応も、「豊富な経験?」を持つ私にしかできない話をしました。
会場では20人ほどの人が聞き、録画をして後で管理職が見るとのことです。みなさんの関心ある主題なので、熱心に聞いてくださいました。反応がよいと、元気が出ます。
また、西脇知事(私の復興庁事務次官の後任)とも久しぶりに会ってきました。