講演の準備5

講演の準備4」の続きです。今回は、準備や本番でなく、終わった後です。
講演を終えた後に、振り返ってみます。帰りの新幹線中などが多いです。
伝えたいことは、忘れずに伝えることができただろうか。
早口にならなかったか。時間配分はよかったかか。
聴衆の反応がよかった部分と悪かった部分はどこか、などなど。

聴衆から評価をもらったり感想文をもらう場合は、それを読むことで、どこがよかったか悪かったかがよく分かります。
それを、次回に活かします。受けがよくなかった部分を、思い切って捨てるとか。うまく伝わらなかった部分の話し方を変えるとかです。これが、次回の準備になります。

そして、資料を入れた半封筒を棚に保管します。電子データは、パソコンに分野別に保管します。それぞれ年月日をつけてあるので、すぐに取り出すことができます。

失敗には必ず原因がある

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」は、野球の野村監督の言葉として有名ですが、元は、平戸藩主の松浦静山の言葉です。この名言が述べるように、失敗には必ず原因があります。

最近の事例でも、痛感しました。
まずは、岸和田市での保育園児が父親の車に取り残され死亡した事件(11月12日)です。自家用車の中に娘を置いて、保育園に引き渡すのを忘れた父親の責任は重大ですが、家族に子どもの欠席を確認する電話を怠った職員の責任も大きいです。職員が保護者に電話をしていれば、また園長が職員に「電話をしたか」確認さえしていれば、この事故は防げたはずです(報道を元に書いています)。

もう一つは、京成電鉄が脱線した事故(11月17日)です。報道によると、内規に違反して、運転士が電車をバックさせたことが原因だそうです。

それぞれ、決められたことを守っていたら防げた事故です。ここに、規則の限界が見えます。そして、職員個人の問題なのか、職場の組織文化(社風)の問題もあるのかが問われます。「社風をつくる、社風を変える

『領域を超えない民主主義』

砂原庸介著『領域を超えない民主主義 地方政治における競争と民意』(2022年11月、東京大学出版会)を紹介します。

「領域を超えない」という表題はやや難しいですが、著者による説明は「なぜ日本では大規模に合併をやったりしてるのに、自治体間の連携はなかなか進まないんだろう」という問いについての考察で、その理由を政治制度に求めています。
確かに指摘されるとおりで、合併のほかは一部事務組合が機能していますが、市町村間・都道府県間の協働・連携はさほど行われていません。災害時の応援くらいでしょうか。観光や企業誘致などはその性格上、競争の動きが目立つことは仕方ないとしても。

第1章で問題適されているように、人や企業が集積している都市圏と、市町村の区域とは合致していません。住民は市境・県境を超えて毎日通勤し、買い物に出かけていて、自治体の範囲を意識していないでしょう。奈良府民や千葉都民という言葉が、このズレを象徴しています。

これまでの地方自治論では、国と自治体との関係が主に議論されてきました。第一次分権改革を成し遂げたので、こんどは、自治体の能力発揮と、自治体間の関係が問題になります。
国と自治体との関係は「権限の配分」なので、法律の規定になじむのですが、自治体間の連携は法律の規定には、なじまないのでしょう。どのような課題に、どのような形で答えていくかが、これからの課題になるでしょう。

第2章で議論されているように、大都市(東京や政令指定都市)における、市と都府県との関係も問題です。二重行政をどのように少なくするか。大都市が独り立ちすると、例えば大阪府庁が大阪市を管轄しなくなり、象徴的には府庁舎が大阪市(と堺市)の外に移転することになります。

分権と市町村合併の次の課題として、小規模自治体の能力向上、大都市の自治の問題、県と市町村との関係などが挙げられますが、この本の問題提起も重要です。

手形交換所終了

11月3日の朝日新聞が「消えゆく、紙の手形 交換所、143年の歴史に幕 取引電子化進み、利用減少」を伝えていました。

・・・企業が代金の後払いに使う「約束手形」などを取り扱う全国179カ所の交換所が2日、業務を終了した。金融機関が受け取った手形を持ち寄り、交換する場を担ってきた。古くは明治時代に設立され、日本の近代から現在までの経済成長を「裏方」として支えてきた。金融取引の電子化が進んだことで、その役目を終えた。
日本最古となる1879(明治12)年に開所した大阪の交換所では2日、最後の交換が行われた・・・

私は2011年の東日本大震災発災直後、政府がつくった被災者支援本部の事務方責任者に任命された際に、「何をするのか」「何ができるのか」を考えました。被害が大きく現地の情報も把握できていません。そこで幹部と議論して、「暗闇の灯台」「手形交換所」になることを目指しました。
「暗闇の灯台」は、どこにどのような情報があるのか、誰が何を求めているのかという情報を集めることです。「まずは、ここに持ってきてください」と明かりをともすのです。
「手形交換所」は、その寄せられた要望と支援できる人や組織をつなぎ合わせることです。この表現はわかりやすく、好評だったのですが。

鎌田浩毅著『知っておきたい地球科学』

鎌田浩毅著『知っておきたい地球科学 ビッグバンから大地変動まで』(2022年11月、岩波新書)を紹介します。出版社の紹介文には、次のように書いてあります。
・・・宇宙や生命はどうやって生まれたのか。地球のエネルギー資源はどう作られているのか。気候変動や災害の原因は何か。ミクロからマクロまで、地球に関わるあらゆる事象を丸ごと科学する学問=地球科学は、未来を生きるための大切な知恵を教えてくれる。大人の学び直しにも最適な知的刺激に満ちた一冊・・・

私が半世紀前に高校で学んだ自然科学の物理、化学、生物、地学の4つのうち、当時は生物学と地学が「古くさく、つまらないもの」でした。ころが、その後の研究の発展で、生物と地学ががぜん面白いものになりました。
「はじめに」にも書いてありますが、数学は17世紀までに発達した微積分など、化学は19世紀までに発見された内容、物理学は20世紀初頭に展開された原子核物理学までが教えられます。
それに対し、生物学はその後、遺伝子や生物多様性の研究が進み、地学はプレートテクトニクスや地球温暖化という現在進行形の研究が教えられています。また日本列島は東日本大震災以来、活動期に入り、国民の関心も高まりました。

目次を見ていただくと、壮大な話と身近な話が載っています。鎌田先生のわかりやすい語り口で、最新の研究が書かれています。岩波新書にふさわしい内容で、これは売れるでしょう。