困る政治主導

10月28日の朝日新聞に「4兆円一夜で丸のみ 政権窮地、自民強気の予算要求」が載っていました。
・・・自民党本部9階で26日午後、萩生田光一政調会長の怒号が響いた。「まだ議論をしている最中にそんなことをするなんてもってのほかだ」。矛先は、総合経済対策を議論する会議に出席する財務省幹部に向けられていた。
発端は、会議中に萩生田氏にかかってきた岸田文雄首相からの電話だ。「官邸に財務大臣が来て、経済対策の話をしている。萩生田さんの了承はまだ得られていないと聞いて急いで電話をした」
その直前、首相は官邸で、鈴木俊一財務相から、経済対策の説明を受けていた。財務省が示した補正予算の規模は、与党の意向もふまえたはずの25・1兆円。しかし、首相周辺によると、首相は「なんでこんなに少なくなっているんだ」と声を上げたという。萩生田氏は財務省の動きを「与党軽視」とみた。首相とのやりとりを会議で伝えると、出席者は「どうなっているんだ」「ふざけるな」と不満を爆発させた・・・
・・・萩生田氏は26日午後5時半ごろ、財務省幹部に「もっと積めるだろ」と、金額の調整を要求。萩生田氏や茂木敏充幹事長と連絡をとった首相も、その3時間あまり後の午後9時過ぎ、公邸に鈴木氏を呼び出し、見直しを指示した。「29兆円を超えられるように、もうひと頑張りできないか」
翌27日、財務省が提示した補正予算案の規模は4兆円多い29・1兆円。内訳には、元々あった「物価高騰・賃上げへの取り組み」や「新しい資本主義の加速」などに加え、「今後への備え」という項目が新たに加わっていた。
目標に掲げた30兆円にこそ達しなかったが、政調幹部は満足そうだった。「3時間で4兆円増えた。『時給1兆円』以上だな」・・・

官僚は、大臣、総理、与党幹部の、どちらを向いて仕事をすればよいのでしょうか。「政治主導」の主語は、誰でしょうか。次のような心配もあります。

・・・ふくれ上がった補正予算の規模に財務省幹部は唇をかむ。コロナ前まで経済対策といえば数兆円が相場だった。それがコロナ禍で数十兆円に巨額化し、「以前は兆なんて言ったら目玉が飛び出したが、今は平気で兆円単位。(コロナ禍の)一律10万円給付からおかしくなった」(官邸幹部)。
折しも、英国では9月にトラス政権がエネルギー価格高騰対策や減税などを打ち出したことで、財政悪化の懸念が一気に広まった。それが金利上昇やポンド下落などを招いて混乱に陥り、政権交代の引き金となった。
この間、財務省が有識者や市場関係者と対話する場では「英国を他山の石とするべきだ」「コロナ禍からの正常化は進んでいる。規模ありきの経済対策はダメだ」などの意見が相次いでいた。日本の国債残高は約1千兆円で、債務残高対GDP比は英国の95%をはるかに上回る263%で世界最悪水準にあるからだ。
経済対策について、財務省は当初、十数兆円規模を想定していた。需要と供給の差である「需給ギャップ」は、足元では15兆円ほど。需給ギャップを「埋める」どころか、大幅に上回る対策となったことで、過度な物価高を助長しかねないリスクさえある。
野村総合研究所の木内登英氏は「エネルギーや食品価格高騰の影響が大きい低所得者対策に絞るべきだ。財政がさらに悪化すれば、将来必要なお金を借金返済に回さざるをえなくなり、潜在成長力が低下する可能性がある」と指摘する・・・