9月24日の日経新聞、小竹洋之コメンテーターの「ポピュリズムは進化する 政権奪取へ異端の印象薄めに」から。
米ギャラップによると、世界の人々が訴える怒りや悲しみなどの強さを示す指数(0~100)は、2021年に過去最高の33を記録した。グローバル化やデジタル化の痛みを感じる庶民が、新型コロナウイルス禍やインフレにも苦しみ、扇動的な政党になびきやすくなっているのは事実だ。
ならば左派ではなく右派のポピュリズムが、欧米で目立つのはなぜか。水島氏は「コロナ禍とウクライナ戦争は、人々の命や安全、暮らしを守る国民国家の重要性を再認識させた。その流れにのった現象だろう」と話す。
同志社大の吉田徹教授にも尋ねた。「右派は現状の維持、左派は未来に向けた変革に軸足を置く。将来不安がはびこる先進国では『何かを得る』という左派の主張より『何も失わない。喪失したものを取り戻す』という右派の主張が訴求力を持つのかもしれない」
見逃せないのはポピュリズムの進化だ。「スウェーデン第一」を標榜するオーケソン氏は、治安の強化や移民の制限を唱える一方で、ネオナチの流れをくむSDの主張やイメージを和らげる努力を重ねてきた。スウェーデンの欧州連合(EU)離脱をもはや求めず、北大西洋条約機構(NATO)への加盟にも理解を示す。
FDI(イタリアの同胞)のメローニ氏も戦略は同じである。移民制限の立場や伝統的な家族観を維持しつつ、ファシズムに近いという印象を薄めることに腐心し、EUとの協調やロシアへの厳しい制裁を貫いたドラギ首相の路線踏襲も掲げる。
EUの世論調査によると、EUを信頼する域内の人々は22年夏に49%を占め、リーマン・ショック前の08年春に次ぐ高水準にある。様々な危機を経て風向きを変えた世論に合わせ、ポピュリストも政権入りをにらんで現実的な対応を探り始めたのではないか。