7月22日の日経新聞経済教室、八代尚宏・昭和女子大学特命教授の「参議院選挙後の岸田政権 高齢化社会の不安払拭急げ」から。
・・・高齢化社会での人々の最大の不安は、社会保障制度が今後も維持可能かどうかにある。負担の配分を議論しないことは、社会保障費用の後世代への負担の先送りという「未来への負債」を放置するに等しい。これでは全世代型社会保障の看板と完全に矛盾している。
社会保障制度の持続性のカギとなるのは、最大の支出項目の年金財政の透明化だ。20年前に作成された長期の経済前提は、長期停滞と低金利政策の下で大きな狂いが生じている。にもかかわらず、非現実的に大きな積立金の運用益の想定のままで「100年安心年金」の看板は降ろしていない。そのうえでマクロ経済スライドにより年金受給額を少しずつ減らしている。受給者からみれば年金財政が盤石なのに、なぜ減額されるのかとの不満が生じる。
日本の年金制度が自らの老後に備える積み立て方式を堅持していれば、少子高齢化の影響は受けなかったはずだ。しかし「給付は多く負担は少なく」という政治の介入の結果、巨額の積み立て不足が生じている。これを解消しなければ子供や孫世代の負担増となるだけだ。祖父母が孫のお年玉を取り上げるような年金制度の実態を真摯に説明すれば、年金削減を受忍する高齢者も少なくないだろう。
年金の支給開始年齢引き上げは政治的にタブーとされるが、平均寿命伸長により自動的に伸びる受給期間を固定しなければ、保険財政が維持できないのは自明だ。主要先進国の受給開始年齢が67~68歳に対し、平均寿命がトップクラスの日本は65歳で放置されたままだ。個人にとって望ましい長生きが年金財政を危機に陥れるという矛盾は、年金保険の基本を国民に説明しない政治の怠慢の結果だ。
日本でも高齢者の定義を75歳以上とすれば、高齢者比率はピーク時にも25%にとどまる。元気な高齢者が税金や保険料を負担して、弱った高齢者を支える側に回ることが、活力ある高齢化社会の基本となる。
他方で国民年金の未納比率は免除者も含め5割を超す。それは将来の無年金者を増やすとともに、厚生年金などの被保険者の負担肩代わりを招く。人口の4割が年金受給者になる超高齢社会に備えて基礎年金の保険料を廃止し、高齢者も負担する年金目的消費税(3.5%)に代替するという08年の社会保障国民会議の構想を再検討すべきだ。
だが逆進的な消費税は低年金の高齢者の負担が大きい。厚生年金は、現役時の高賃金者ほど多くの年金を受給する仕組みだ。豊かな高齢者から貧しい高齢者への同一世代内の所得再分配を強化し、後世代の負担を減らす工夫も必要だろう・・・
ほかにも重要な問題点をいくつも指摘しておられます。原文をお読みください。