7月1日の朝日新聞連載「2022参院選」「きしむ霞が関 増える業務・増えぬ人員、180人で7400船舶事業者カバー」から。
・・・観光船業者へのずさんな監査や基幹統計の不正――。国土交通省で相次いだ問題の背景にあるのが「人」の「不足」だ。現職官僚からは「ブラック霞が関の悪い部分が表れた」との声も漏れる。省庁のきしみは市民生活にも響きかねないが、選挙戦ではあまり語られない。識者は、官僚のあり方について「候補者はスタンスを明らかにして」と訴えている・・・
・・・4月に起きた北海道・知床半島沖の観光船「KAZU1(カズワン)」沈没事故では、乗客・乗員計26人のうち14人が死亡、12人が行方不明になっている。
事故をめぐっては、運航会社の安全管理のずさんさが明らかになったが、あわせて浮き彫りになったのは国交省側の監督の甘さだった。同省は昨年、運航会社に特別監査に入り、その後は改善の事後確認まで行っていたが、今回の事故後、改善されたはずの点を含め、17件もの安全管理規程違反が判明した。
国会では「国の確認がずさんだ」との声が相次ぎ、斉藤鉄夫国交相は「確認や指導が十分にできていなかったと認識している」、岸田文雄首相も「国交省として責任を十分に果たしていなかった」と認めた。
背景に見えてきたのは仕事量が膨らむ一方で人員は減らされてきた現場の厳しい実態だった。観光船の監査などを担う同省の「運航労務監理官」は2005年、安全担当の「運航監理官」と労働担当の「船員労務官」を統合してできた。「公務員の定数削減が求められる中で人減らしの側面があった」(同省幹部)とされ、1人が担う仕事が一気に増えた。
以降も業務量は増え続け、ここ数年に限って見ても、技能実習生の保護(17年)、飲酒規制の強化(19年)、働き方改革に向けた労働時間の管理強化(今年)などが加わっている。
一方で人員はここ10年で微減。今は180人で旅客船・貨物船計約7400事業者をカバーし、船員約7万6千人の労働にまで目を光らせる。北海道内に限れば16人で、カズワンの運航会社がある道東の広大なエリアの約70事業者をカバーするのは、わずか2人だ。
事故を受け、業務量はさらに膨らむ見通しだが、人員が手当てされるかどうかは、あくまで「政治の判断次第」(同省幹部)という・・・