感染症対策の科学と政治

6月9日の朝日新聞、飯島渉・青山学院大教授の「中国が続ける「ゼロコロナ」政策の教訓は」から。

――中国が続けてきた政策は妥当でしょうか。
「02年から03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行が、医療・衛生行政の改革のきっかけになりました。経済成長の果実を使いながら、医療保険制度の改革を行いました。現在の対策を見ると、社会主義の下での大衆動員による医療・衛生行政との連続性も垣間見えます」
「感染症対策を決定するのは科学であると同時に、むしろそれ以上に政治、文化や社会であることを痛感します。中国では、政治文化としての介入的で、動員的なモデルからの離脱が難しい。ただ、いずこの国も臨機応変な政策転換は容易ではありません」

――中国の現状から、日本や世界各国がくみ取れる教訓は何でしょうか。
「中国の対策の特徴は、『社区』や『小区』と呼ばれる居住単位を基盤とした厳しい行動規制、情報通信技術(ICT)を駆使した住民管理、それを実現しうる共産党の組織力、物資や医療人材を集中させられる経済力です。同時にロックダウンのコストは膨大で、継続は難しい」
「一方、そのあり方は近未来的でもあり、さまざまな健康情報の集約も含め、過度に情報が一元化されています。その方が効率的だという誘惑にかられるのですが、個人の生活において、常に自分の情報をめぐって防疫との『取引』をしなければいけない世界だといえます」
「中国の感染症対策におけるICTの活用は、デジタル化した社会での個人の生活のあり方を考えるきっかけを提供しています。ポストコロナを見据えながら、その過程をていねいに検証する必要があるでしょう」