6月3日の朝日新聞オピニオン欄、相川充・東京学芸大名誉教授の「「すみません」よりも、「ありがとう」にしませんか」から。
・・・他人に何かしてもらうと、ありがたいとか申し訳ないとか、何らかの気持ちがわき起こります。大きく分けて二つの要素が、相手への気持ちを決めると心理学では考えられています。
一つ目は、「うれしい」とか「助かった」とか思うことで表されるような、自分の得た利益の大きさです。二つ目は、相手が自分のために費やした時間や労力、金銭などの負担の大きさです。二つの要素の大きさの合計が、「相手への気持ち」の大きさになります。心理学の研究で、これは世界の主要国で同じだと確認されています。
ただ、「自分の利益」と「相手の負担」のどちらを重視するかは、国や文化により異なります。欧米では「自分の利益」が重視されていたのに対し、かつて私が論文発表した研究では、日本では「相手の負担」が重視されていました。
個人主義ではなく集団主義の日本では、まず集団があって自分がいるので、互いに自分を譲って相手を立てます。そんな相手に何かしてもらえば「大変な思いをさせてしまった」という気持ちが先に来ます。だから日本人は、こうした場面で「すみません」「申し訳ありません」と、謝罪の言葉で対応することが多いのです。
ただ、感謝を示すのに「すみません」を繰り返していると「相手に迷惑ばかりかけている」という気持ちが募り、心の重荷が増えていきます。どうすればいいか。感謝したい場面では、きちんと「ありがとう」と言いませんか。「ありがとう」という感情を相手に伝えることで、満足感や自尊心が高まることもわかっています。
感謝を伝えるのは本来ポジティブな場面です。「すみません」とネガティブに自分を下げず、「ありがとう」と言ってポジティブを体験することが大事です。行動を習慣化すると、いずれその行動が人格に影響を与える。そうした心理学の考え方の実践で、心の負担を減らせ、周囲にも自分の心にも変化があるはずです・・・