市町村アカデミー研修、現地調査

職員研修と聞くと、教室に座って講師の話を聞くと想像する人が多いです。確かにそのような形が多いのですが。聞くだけでは身につくことは限られていて、参加する方が身につきます。
市町村アカデミーでは、ほぼすべての研修に課題演習(討議)を組み込んでいます。課題をアカデミーで準備する場合、研修生に持ち寄ってもらう場合などがあります。班に分かれて討議します。講師や教授が巡回し、必要に応じて助言しますが、あくまで研修生たちの自主性を重んじています。そして、各班の討議結果を全体会合で発表し、講師が講評します。
このような参加型研修は、座って聞くだけの研修とは効果が違います。楽な研修は効果が少なく、負担が効果を高めます。スポーツも同じです。

さらに、現場を見て研修することもあります。今朝は、「既存の建物等を活用した地域の再生」の研修生たちがバスに乗って、香取市に出かけていきました。現地調査は受け入れ先や指導教官などに負担がかかるのですが、それだけに効果が大きいです。

トイレの重要性

5月12日の朝日新聞夕刊1面に「火事だ!トイレも現場へ 熱中症リスク・寒い夜…水分我慢しない 東京消防庁」が、大きな写真付きで載っていました。

・・・東京消防庁が昨年に導入した「トイレカー」が活躍している。この1年で40件以上の現場に駆けつけ、いったん出動したらトイレを我慢しがちになっていた署員の活動を支援してきた。消防だけでなく、災害に備えて移動式のトイレを配備する自治体も増えている・・・

・・・全国の自治体でも、トイレカーやトイレトレーラーの導入が相次いでいる。
東日本大震災をきっかけに組織された一般社団法人「助けあいジャパン」(東京)は、全国の自治体がトイレトレーラーを常備するよう呼びかけている。「みんな元気になるトイレ」プロジェクトと題し、災害時に自治体の隔てなく派遣し合うことを目指し、ふるさと納税を購入資金に活用することを勧めている。仕様によって異なるが、トレーラーはおおよそ2千万円前後という。
静岡県富士市は2018年に導入した。普段はスポーツ大会や花火大会といったイベントで使っているが、豪雨や台風の被害を受けた岡山県や千葉県、長野県にも派遣した。市の担当者は「臭うこともある仮設トイレより清潔で明るい。鏡や洗面台があり、化粧直しもできると女性からも好評だ」と話す・・・

災害直後の避難所でも、トイレ、温かい食事、快適な寝床が必要です。特に、トイレは辛抱できません。水や食料は運べるのですが、トイレは運べないのです。

こども食堂3

子ども食堂2」の続きです。
近年、多様性(ダイバーシティ)の尊重が提唱されています。さまざまな事情を持った人たちが社会で活躍できるようにすることは、重要なことです。
この点に関して、湯浅誠著『つながり続けるこども食堂』(2021年、中央公論新社)に、次のような指摘があります。
「みんなちがって、みんないい」はよいことか。家族旅行に行くときに希望を聞いたら、父はハワイ、母は温泉、姉はディズニーランド、私はどこも行きたくない。では、みんなバラバラに行くのがよいのか。

これは困りますよね。湯浅さんは、多様性だけでは足りない、配慮が必要だと指摘します。その配慮は、英語ではインクルージョン(inclusion)で、包摂などと訳されますが、湯浅さんは「配慮」と訳します。
家族それぞれに希望が異なる行き先を、みんなで話を聞いて、配慮し合うことが必要です。みんなバラバラだけでは、困るのです。多様性と共同性を両立させるためには、各人の意尊重尊重とみんなでの配慮が必要です。

田村太郎さんは、ダイバーシティ(多様性)への配慮に関して、次のような指摘をしています。
「少数者(マイノリティ)への配慮」と言われるが、この言葉はおかしい。日本の人口では、女性の方が男性より多い。女性は少数者でなく、社会において男性より「劣位」におかれてきた。
そうですね。男性でも子育てや家族の介護・看護をする社員は「少数者」で、配慮されませんでした。

自立準備ホーム

5月10日の朝日新聞オピニオン欄、日本自立準備ホーム協議会代表理事・高坂朝人さんのインタビュー「加害者、減らすために」でした。
・・・ 少年院や刑務所を出ても行き場のない人を一時的に引き受ける自立準備ホームの全国組織、一般社団法人「日本自立準備ホーム協議会」が設立された。立ち上げに尽力して代表理事に就いたのは、逮捕歴15回の元非行少年、高坂朝人さん。目指している「加害も被害も減らすための再犯防止」には、何が必要なのか・・・

――寝泊まりする場所を提供する自立準備ホームは、いつから?
「15年12月に始めました。NPOの活動の中で、少年院などを出ても帰る場所がない少年たちを引き取る必要に迫られてアパートの部屋を借り、自立準備ホームとして登録しました。入所者は半年までいられ、家賃や食費、光熱費などの本人負担はありません。僕たちは彼らに食事を届け、1日1回は会って話をし、自立の支援をします。今は9室あり、これまでに約80人が入居しました」
「食費や宿泊費など、1人あたり月14万円強の委託費が国から出ますが、運営はとても厳しいです。入所者がいなくても家賃は発生します。夏に逮捕された人がサンダルに軽装のまま寒い時期に出てくるなど、着の身着のまま入ってくる人も珍しくありませんが、被服費は出ません。布団や家具、家電、シャンプーなどの日用品も全部僕たちが用意します。部屋の初期費用で25万円、日用品などは新しい入所者が来るたびに2万~3万円はかかります」
――障害者支援もしています。
「発達障害などがある少年は少なくありません。自立準備ホームは半年しかいられませんが、半年以内に一般就労するのも、その間にアパートを借りる金をためるのも非常に難しいのが実情です。そこで18年に障害者のグループホームも始めました。自立準備ホームからグループホームに移って2~3年ほど生活して、お金をためてから自立しています。20年からは就労継続支援B型事業所も始めました。自立準備ホームの夜ごはん作り、ストラップやブレスレット作りなどをしています。いずれも必要に迫られて始めたことです」

――全国組織の目指すところは何ですか。
「自立準備ホームは、これまでの更生保護施設だけでは足りないと法務省が始めた制度です。更生保護施設は集団生活が基本で、過去に施設で問題を起こした人などは受け入れを拒否されることもあります。酒や携帯電話は禁止のことが多く、門限があれば深夜のアルバイトはできません。国から費用が出るのだから、それぐらい厳しいのは当然だという意見もあると思いますが、本人にしてみれば『制約が多くて入りたくない』となる。住むところがなければ、再犯の可能性は高まります」
「一方、自立準備ホームは自由度が高い。たとえばうちのホームはアパートで一人暮らしで、20歳以上なら酒もたばこもOKです。宿泊はダメですが、友人が遊びに来るのも構わない。住まいの選択肢は多い方がいいはずです。もちろん更生保護施設の方がいいところもあり、それが合う人もいます。更生保護施設と自立準備ホームの連携が、絶対に必要です」

<自立準備ホーム> 行き場のない、刑務所や少年院からの出所者・出院者を受け入れる宿泊場所。全国に103カ所ある更生保護施設以外にも多様な受け皿を確保するとして、法務省が2011年に導入した。保護観察所に登録した事業者が運営し、保護の委託を受ける。入所者は最長6カ月まで生活でき、食事の提供のほか就労や自立の支援を受ける。20年度は1719人が入所した。

ゼロリスク信仰を乗り越える

「ゼロリスク信仰」という言葉があります。身の回りの危険は完全に防ぐことはできず、完全に防ごうとすると、行動が制約されたり費用がかかったりします。専門家は危険の程度を客観的に説明するのですが、ゼロリスクを信仰する人たちはそれらの危険を程度と考えず、安全か危険かの二者択一で考え、主観的に危険をゼロにすることを求めるのです。食の安全、原子力事故、感染症などで現れました。

ゼロリスク幻想との決別」(読売クオータリー2021春号2021年7月30日)に、BSE(牛海綿状脳症)での全頭検査、福島県産農作物の放射性物質検査について、安全性が確認された後も検査を続けたことの無駄が指摘されています。

対照的なのが、新型コロナウイルス感染症対策です。
感染拡大を防ぐには、外出しないことが効果的です。当初は全校休校や飲食店などの休業が実施されました。感染を押さえ込む「ゼロコロナ」という考えも一部にはありましたが、それは現実的ではないと分かりました。
すべての外出を規制すると、社会活動や経済活動が停止します。百か零かという二者択一は取ることができず、どこかで折り合いを付ける必要があります。そして、多くの国民は家に引きこもることなく、マスクを付け三密を避けて外出しました。その後も、感染が拡大すると規制が強化され、感染が縮小すると規制を緩めるということを繰り返しています。

これは、ゼロリスク信仰を克服する良い経験でした。感染拡大を防ぐためには行動制限が必要ですが、まったく外出しないわけにはいきません。安全と危険の程度を秤にかけて、どこかで折り合いを付けなければならないのです。
BSE牛や原発事故農作物の検査の場合は、消費者はそれらの検査は供給者に要求すれば良いのに対し(ただしその費用は税金などです)、コロナ感染症予防の行動制限は、全員が自ら判断しなければならないのです。そして、国民はその試練を乗り越えています。