デジタル化が負担を増やす

4月18日の日経新聞に「名ばかりDX、逆効果 アナログ風土の見直し遅れ」が、載っていました。詳しくは記事を読んでいただくとして。

マイクロソフト社の調べでは、2020年3月と2022年3月を比べると、オンライン会議が一人あたり2.5倍になっているそうです。休憩なしのオンライン会議を続けるとストレスが蓄積し、集中力が低下することが確認されています。
NTTデータ経営研究所の調査では、時間外に上司から緊急性のない電話や電子メールがあり、週1回以上対応している人は22.5%と増えているそうです。
時間外の連絡に対応する人の7割は、「気になることは早く終わらせたい」ことを理由に挙げています。

記事は「仕事も私生活も「常時接続」が当たり前になった」と表現しています。それが仕事を楽にするのではなく、負担を増やしているのです。
機械が入っただけでは、仕事は簡素化されず、逆に増えているのです。20年前に「IT化」が叫ばれ、仕事の効率化につながらなかったので、今度は「デジタル化」「DX化」と表現(包装紙)が変わりましたが、内実は変わりませんね。

安いことは良いことか、経済と行政

2022年1月24日付「自治日報」に砂原庸介・神戸大学教授が「公共サービスの価値と価格」を書いておられました。

・・・岸田政権が発足してから打ち出した最重要課題のひとつに、分配を進めるための公的価格の引き上げがある。看護・介護・保育などの公共サービスにかかわる人たちの給与を引き上げることが目的とされているという。20年以上にわたって、「お値段据え置き」が続き、給与にかかる部分だけでなく、さまざまなところで節約を求められてきた結果、多くの公共サービスは基本的な資産の維持管理もままならない状況となっている中で、価格引き上げを歓迎する声もある。

日本では、公共サービスの対価を取ることへの抵抗が強いと思われる。公共サービスは、低所得などで困難を抱える人々を対象にするのだから、無料とは言わないまでも低価格の慈善的な性格が強いものであるべきだという発想がある。さらに、モノを伴わずに人が何かをしてくれるサービスというものにお金を支払うべきだという観念がそもそも弱いと言われる。税を払うことへの忌避感・負担感が強く、「税金を払っている」ということで公共サービスへの支払いを行っていると見なされることも、公共サービスから対価を取ることを難しくしているだろう・・・

指摘の通りです。バブル経済崩壊後の30年間で、「安い方が良い」という信仰は、衣類や外食産業をはじめ広く製造業やサービス業に行き渡りました。それは消費者にとって良いことなのですが、そのために正規社員が非正規社員に置き換えられ、社員の処遇も上がらないのでは、社会にとって良くないことです。
この30年間、日本の給料は上がらず、韓国に抜かれました。ビッグマックは、ソウルやバンコックより東京の方が安いのです。
給与が上がらない、それで消費が増えない、そこで給与を上げない、消費が増えないという悪い経済循環に落ち込んでいるのが、この30年間、失われた30年の実態です。必要な値上げができていないのです。

働き方改革、制度改正と雰囲気と

国を挙げて取り組んでいる働き方改革。政府は法律を改正したり、補助金を出したりして誘導しています。それも効果を出しているのですが、制度改正だけでは進まない実態もあります。

4月21日の読売新聞解説欄に「改正育児・介護休業法 施行 男性育休増へ 企業も変革」が載っていました。
・・・改正育児・介護休業法が今月から施行され、子どもが生まれる従業員に育児休業(育休)制度を説明し、取得の意向を確認することが、全ての企業に義務付けられた。少子化の解消に向け、男性の育児参加を促すのが狙いだ。企業は、意識改革や働き方の見直しなど試行錯誤を始めている・・・
・・・育休は、原則、子が1歳になるまで認められる。男女を問わず取得でき、休業中は賃金の最大67%が雇用保険から給付される。
しかし、雇用均等基本調査によると、20年度の育休取得率は、女性が81・6%に対し、男性は12・65%にとどまる。育児や家事の負担が女性に偏り、2人目以降の出産意欲をそいでいるとの指摘もある。少子化の解消に向け、男性の育休取得の促進は急務だ。
厚生労働省の20年度の調査では、育休を希望しながら取れなかった男性は約30%だった。希望の有無にかかわらず取らなかった理由を聞くと、「収入を減らしたくない」が約41%で最も多かったものの、「職場が育休を取得しづらい雰囲気」も約27%に上った。育休を取った男性がいない職場では、取っていいのかわからないケースや、評価や昇進に影響すると不安に思うケースが指摘されている・・・

4月18日の朝日新聞生活面には、「有休取得、まだ欧州より低水準 2020年、取得率は過去最高だが…」が載っていました。
・・・有休は勤続年数などに応じて企業から付与される。厚生労働省によると、20年に従業員が付与された有休は平均17・9日。そのうち実際に取得したのは10・1日、取得率は56・6%で、いずれも調査を始めた1984年以降で最高だった・・・
・・・海外と比べるとどうか。旅行予約サイトのエクスペディアが21年、16の国・地域で約1万5千人を対象に調べた結果、日本の有休取得日数は12日で上から7番目、取得率は60%で下から3番目だった。
上位を占めたのは欧州で、ドイツは取得日数が28日、取得率が93%といずれも最多。フランスは25日で83%、イタリアは20日で77%だった。
一方、米国は取得日数が8日と最も少なかった。ただ、付与日数も少ないため、取得率は80%と高かった。
欧州に比べ、日本の取得率はなぜ低いのか。国が民間の調査会社に委託して21年9月、全国の正社員5千人を対象に調べたところ、46%の人が、有休の取得に「ためらいを感じる」「ややためらいを感じる」と答えた。
主な理由として「みんなに迷惑がかかる」「後で多忙になる」「職場の雰囲気で取得しづらい」との回答が多かった。十分な有休を取れるような職場の態勢や環境の整備が求められそうだ・・・

4月18日の日経新聞女性欄「男性育休「不安は昇進」 子育て世代が本音の座談会」には、育休取得経験のある男性156人への調査結果が載っていました。男性が育休を取りやすくなるために必要なこと」は、74%が上司の理解、64%が同僚の理解、53%が昇進や配置転換で不利にならないことです。

ひらめき

ぼんやり考える時間」の続きです。
ある主題に集中しているのでもなく、ぼんやりといろいろなことを連想しているのでもないときに、重要な問題の解決をひらめくことがあります。
ニュートンがリンゴが落ちるのを見て万有引力を発見したとき、アルキメデスがお風呂に入っていて比重を思いついたときです。

その発見のためには、それに関する「問題意識」を持っていることと、そこにたどりつくまでの「基礎知識」が必要です。量子力学の世界は、私たち素人では基礎知識がなく、どんなセレンディピティ(幸運な偶然を手に入れる力)に恵まれても、発見はないでしょう。
しかし、試験や試験勉強のように、その問題を前に紙と鉛筆を持って考え込んでいるのではなく、ぼんやりと考えている時にひらめくのです。なぜでしょうかね。参考「直観サバンナ

少し脱線しますが、「探しものを見つける」場合にも、集中して探す場合と、ぼんやりと探す場合があります。
本屋を考えてください。書名が分かっている本を探す場合、ある分野の棚で良さそうな本を探す場合のほかに、何か面白そうな本はないかと棚を見渡す場合です。3番目の場合は特に主題を決めていないのですが、ぴんとくる本に出会うことがあります。これも、頭の中にぼんやりと関心事項があって、それにはまるのでしょうね。
ぼんやりとでも、アンテナを張っていると、引っかかるものがあるのでしょう。

内永ゆか子さん、リーダーに必要な4要素

4月21日の日経新聞夕刊「私のリーダー論」は内永ゆか子・J-Win理事長の「部下をもっと好きになる」でした。

――部下との関わりで印象に残っていることは。
「役員になる前の40代前半、数カ月ごとに副社長補佐、担当部長などを転々としていた時期がありました。いつも100人以上の部下がいましたが、ほとんどが男性で、その分野での経験が長い人も多かった。私は『バカにされたくない』と思っていました」
「あるとき次の部署への異動が決まり、長い間課長を務めていた男性に『私へのアドバイスがあったら言ってください』とお願いしたことがあります。すると彼から『内永さん、私たちをもっと好きになってください』と言われ衝撃を受けました」

――その後、行動は変わりましたか。
「当時の私は、部下が素晴らしい発言をしても、もっと良いことを言おうとしたり、部下たちと張り合ったりすることがあった。部下を好きになるよりも、負けたくないと構えてしまっていたのです。そうすると相手にも構えられます。それからは仕事で誰かと対立することがあっても、心の中で『私はこの人が好きなの』と思うようにしています」
「そうすると不思議なことに、自然に顔がにこやかになり、相手との関係もほぐれます。この言葉は長らく私の座右の銘になりました」

そこに、リーダーに必要な4つの要素が示されています。
――内永さんが考えるリーダーに必要な素質は。
「第1にきちんとしたビジョンを持てる人。夢を語るだけでなく、実現するためのマイルストーンまで考えられることです。2つ目は自分なりの価値判断があり、適切に決定を下せるかどうか。3つ目は顧客はもちろん、社員も大事にできることです。リーダー1人でできることは限られていますから」
「そして4つ目は前向きに考えられること。頭が良くてもリーダーに向かないタイプの典型は、問題指摘優先型です。批判は上手だけど、ゼロから新しいアイデアを考えて計画することは苦手という人は適任ではありません」

――これまで出会ったなかで「真のリーダー」と感じた人はいますか。
「女性役員を集めた米国での講演会で、英国のサッチャー元首相にお会いしたことがあります。近くで話しているときは優しいおばあちゃんという印象だったのですが、一度舞台に上がり、英国の政治や産業に自分がどう取り組んできたかを話し出すと、強烈なエネルギーを感じました。『鉄の女』と呼ばれるだけあって、自分の信念を確立している方なのだと感じました」