偉い人ほど優しい

4月7日の日経新聞私の履歴書、野路國夫・元コマツ社長の「アトランタ 入社8年、念願の海外赴任」から。

・・・住んだのは、会社が借り上げた郊外の立派な屋敷だ。15畳ほどの大きなリビングルームと4つのベッドルーム、広々とした庭もあった。もちろん若輩の私がそんな豪邸を独り占めするわけはなく、日本から来る出張者を泊めて、面倒を見るお世話係の役目も兼ねていた。

多くの出張者に接するうちにあることに気がついた。アトランタには当時の河合良一社長はじめ様々な人が来たが、偉い人ほど優しいのだ。社長からはねぎらいの言葉を頂き、技術部門のトップだった本部長は妻子から預かった手紙を持参してくださった。
ところが部課長クラスにはやたらと威張る人もいて、「飲み屋に案内しろ」「もっと楽しい場所へ連れて行け」と好き勝手を言う。顔では笑って対応したが、内心では「管理職になっても、こんな振る舞いは絶対にしない」と自分への戒めにした・・・

ぼんやり考える時間

物事を考えるときには、二つの状態があるようです。
一つは、ある課題を集中して考える場合です。試験勉強や、差し迫った仕事の課題を考える場合、締め切り間近の原稿を書く場合です。これは、皆さんおわかりでしょう。
もう一つは、ぼんやりと考える場合です。特段の課題はなく、締め切りもない状態です。新聞や本を読んでいて連想がわく。布団の中でふと思いつくことなどです。

不思議ですよね。課題があって考える場合は、それにつながりがあることを考えつくのは分かりますが、後者の場合は、何も焦点がないのに連想が続きます。かつての体験を思い出したり、ある風景を思い浮かべたり、音楽を口ずさみます。
私たちの脳は、いろんなことを、脈絡もなくミラーボールのように映し出しているようで、それを別の脳細胞が取り出すのでしょう。つながりがないように思えても、脳は何か「同じような映像の形」あるいは「ある鍵となる言葉」をつながりとして、ほかの記憶を呼び起こしているようです。

このホームページの記事の半分は、読んだ新聞や本、体験から主題を考えつきます。残りの半分は、ぼんやりしているときに「こんなことも記事になるなあ」と思いつくのです。
しかも、一生懸命考えている場合より、ぼんやりと考えている場合の方が、さまざまなことを思いつきます。布団の中、電車の中、職場での仕事の合間などです。
頭の中の引き出しから、いろんなことを引っ張り出すようです。もちろん、引き出しにいろんな記憶が入っていないと、取り出すことはできませんが。引き出しに入っているだけでは、出てきません。何が、引っ張り出すきっかけなのか。よく分かりませんね。
脳の働きと仕組み、推理の能力

自民党部会で責められる官僚たち

4月6日の朝日新聞夕刊「取材考記」、野平悠一・記者の「「物言う」自民部会 対ロシア、安倍外交検証を」から。

・・・ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始してから1カ月余り。外務省担当として連日、外交部会を中心とする会合を取材してきた。
始まるのは大抵の場合、午前8時。外務省や防衛省など、部会に呼ばれた関係省庁の役人が長机にぎっしりと並ぶのが恒例の光景となっている。官僚が最新の情勢をまとめた詳細な資料をもとに報告し、そこから議員の質問や意見などを受ける。

「弱腰外交だ」「日本政府の対応が遅すぎる」
ウクライナ情勢をめぐって議員から飛び出す意見は手厳しい。与党にもかかわらず、ここまで政府を厳しく糾弾する部会は他に見たことがない・・・ただ、厳しい言葉の矛先はほとんど外務省官僚だが、批判の中身は他でもない、これまで自民党の安倍政権が行ってきたロシア外交そのものだ・・・党部会では、安倍政権のレガシー(遺産)とされたはずの日ロによる共同経済活動や、「8項目の経済協力プラン」について、「日本が損得で動くと見られるとロシアに足元を見られる」と中止を求める声もあがる。安倍政権でつくった「ロシア経済分野協力担当大臣」のポストの廃止論もくすぶっている。

であるならば、当時の安倍政権によるロシア外交が正しかったのか、検証から始めるべきではないか。日本外交が大きな転換点を迎えるなか、総括抜きに今後の外交方針は示せない。安倍外交を後押ししてきた与党の責任は重い。「物言う外交部会」に期待したい・・・

官僚意識調査「現代官僚制の解剖」

北村亘編『現代官僚制の解剖 意識調査から見た省庁再編20年後の行政』(2022年、有斐閣)が出版されました。宣伝文には、次のように書かれています。
「政治主導の強化の中で、現代日本の官僚たちは、日常業務や組織運営、そして政治や政策課題に対してどのような認識を抱いているのか。約20年ぶりに実施された包括的な官僚意識調査から多面的に分析する。」
このホームページでも紹介した、北村亘先生を代表とする2019年に実施された官僚意識調査に基づく官僚分析です。調査については、先生の論文「2019年官僚意識調査基礎集計」(「阪大法学」2020年3月)をご覧ください。

かつては「日本の官僚は優秀」との評価があり、官僚たちも自信を持って仕事をしていました。しかし1990年代以降、政治主導が進み、政治家との関係が変わりました。省庁再編も行われました。それからもう20年も経ちます。他方で官僚の評価が下がって志望者が減るなど、官僚の生態も大きく変わりました。
官僚を取り巻く環境の変化(社会の課題、政治家との関係など)とともに、官僚たちがどのように考えているかは、官僚制を機能させるために重要です。

調査自体も貴重なのですが、この本は調査結果を集計するのではなく、次のような切り口で、現在の官僚たちの考え方を分析します。政治家との関係、官邸主導、政策実施手法、国地方関係、新しい技術、組織内リーダーシップ、やる気、仕事と生活の両立などです。目次を見てください。何が官僚制の機能不全を生んでいるのか、また再生を阻んでいるのか。大きな足がかりとなります。
この調査と本の価値は大きいです。官僚だけでなく、政府の幹部、政治家、マスメディア(政治部)にも読んでほしい論文集です。
このような調査を雇い主である内閣が行わず、研究者に委ねていることが問題です。次回は、内閣人事局と一緒に実施してほしいです。(これは、「誰が官僚制を再生させるか、その所在が不明だ」という問題につながります。この点については、別途書きましょう。)「官僚意識調査」「北村亘先生「2019年官僚意識調査基礎集計」

本の「はじめに」で、私のことも紹介していただきました。
「テレビコマーシャルよろしく『24時間働けますか』と言いながら『5時から男』として夕方に宴席に行っていた不思議」という私の発言が、「働き方を具体的に考える際には実は大きなヒントを与えていただいた」とです。苦笑。
小西砂千夫著『地方財政学』でも、私との対談がきっかけだったと、書いてもらいました。そのような「触媒」になったとするなら、うれしいです。

最悪を想定しておく

3月31日の日経新聞夕刊「私のリーダー論」、EY新日本監査法人・片倉正美理事長の「変革へ少数派強みに」に、次のような話が載っています。

「私は最悪の時がどういうものかを常に考えます。そのうえで、こうなったらこうすればいい、こういう時は誰に相談しようなどと道筋を作っておく。そうすれば大丈夫だと信じられます。理事長選挙の時も『前理事長のかいらいで理事長をやろうとしているのでは』『女性で大丈夫か』など自分がへこむ質問の想定問答をいっぱい考えました。実際は出ませんでしたが、準備したから自信を持って臨めたし、皆さんから信頼してもらうことにつながったのだと思っています」