ウエッブ会議の欠点

3月23日の朝日新聞夕刊、宮原秀夫・元大阪大学総長の「ウェブ会議、このままではダメ 異論が封じられる恐れ」が、勉強になりました。一部を(順序を入れ替えて)転載しますが、原文をお読みください。

――コロナ禍でネットが果たした役割をどう評価しますか。
当初は、どんなウイルスかも分からない中で、通信技術が社会活動を維持するインフラとして貢献したことは間違いありません。それでも総じて言えば、コロナ禍は技術のマイナス面や限界が浮き彫りになる契機だったと思います。

――ウェブ会議システムに毎日世話になっている身としては、プラス面のほうが大きいように感じます。どこがいけませんか。
定型的で、連絡事項を伝えるだけの会議ならウェブは役割を果たせます。ですが、大学の総長など会議を主催してきた立場としては、議論を尽くして本当に重要なことを決定する会議にはウェブは不向きだし、使うべきではないとすら思っています。
現在のウェブ会議システムでは、臨場感や、発言者以外の画面に表示されていない参加者の表情やしぐさを読み取ることはできません。顔の表示をしないことも可能です。
同時にしゃべれる人数は限られているし、例えば大学の評議委員会など重要な会議では必ず出る「それはおかしいやないか」という反対意見も出づらい。そういう意見が続いて議論が深まったり、全く別の結論に至ったりすることが起きづらいわけです。

――異論を出しにくいことが問題ということですね。
逆に言えばウェブ会議は、反対意見を聴かずに、議論をある方向に持っていこうと主催者が決めてしまっている会議にはうってつけだとして悪用されているのではないか、と思うこともあります。
うるさい反対意見を聴かなくていい。「定型のしゃんしゃんで終わろうと思う会議なら、今後はもうウェブ会議でええんやないか」と。感染が収まっても、リアルの会議に戻らなかった場合は要注意だと思います。

――他方でウェブ会議システムは遠方の人と知り合うことができ、外出が難しい人にも貴重なコミュニケーションツールとなりました。
もちろん、病気や障害で外出ができない人には、VR(仮想現実)やロボット、アンドロイド技術の進歩はプラスでしょう。

フェース・トゥ・フェース、顔をあわせた関係が前提にあるべきです。実際に、ウェブ技術が進歩するのにあわせて、実世界の人間の交流もどんどん活発になってきていた。コロナ禍までは国内の新幹線の利用者も、世界的な飛行機の旅客の数も増え続けていたわけです。歴史が証明しています。
やっぱり人と会うのは楽しい。「じゃあ今度会おうよ」と新たな交流が生まれるような技術こそ、求められる真のDXだと思います。