2月10日の読売新聞解説欄は、「「拡大自殺」背景と対策」でした。
・・・他人を道連れにして死のうとする「拡大自殺」と呼ばれる犯罪が相次いでいる。電車内やクリニックなど公共の場で起こされるケースもあり、人々の安全を脅かしている。背景にはどのような問題があり、どんな対策が考えられるのか・・・
土井隆義・筑波大教授の「「生きづらさ」抱え込む若者」から。
・・・将来を悲観し、自暴自棄になって起こされる事件の多くが、「拡大自殺」に該当すると考えられる。中には若者による犯罪も少なくない。背景にあるのは、現代の若者たちに特有の「生きづらさ」だ。
社会が右肩上がりだった時代は過ぎ去り、国内総生産(GDP)は1990年代から低迷が続く。人生が山を登るような感覚だった80年代までと異なり、現代の若者たちは今日も明日も変わらない平地を歩くイメージで生活している。
しかも、今いる場所から一度でも「転落」すると、二度とはい上がれないという感覚にとらわれている。それが、「生きづらさ」の主たる要因だ。
インターネットの影響も大きい。多様な価値観が広がるネット社会では、人々はかえって不安になり、同じような学歴や趣味、目標などを持つ同質の人とのつながりを深める。若者は特にこの傾向が強い・・・
・・・「生きづらさ」を緩和するためには、人間関係を広げることが有効だ。一つの居場所を失っても、別の居場所があればセーフティーネットになる。視野が広がり、「転落」という発想から解放される。
物事にチャレンジする意義を伝えることも重要だ。例えば、望んだ仕事でなかったとしても、とにかくやってみれば、新たな可能性や楽しみを発見できるかもしれない。そうした体験は自信となり、失敗や挫折を乗り越える意欲につながる。
それでも孤立してしまった若者に対しては、行政だけでなく、民間の支援団体を含む社会全体でアプローチすることが大切だ。そうした周囲の助力によって社会とつながることができれば、行政による職業訓練のプログラムなどを通じ、立ち直っていけるのではないか。
人生には色々な道がある。人は皆、つまずきながら成長していくものだ。若者たちに繰り返しそう伝えていく必要がある・・・