社会エレベーター

1月5日の日経新聞1面「動くか社会エレベーター」に、興味深い数値が載っています。
「社会エレベーター」という指標で、各国の所得格差の大きさや教育・雇用を通じ階層が変わる確率です。最貧層に生まれた場合、1世代を30年として平均所得に届くまで何世代かかるかを示します。経済協力開発機構(OECD)が2018年に分析したもので、格差を克服する難易度を探るうえで目安になります。

記事に着いている図表では、各国の数値は次の通り。
中国、インド、7世代。フランス、ドイツ、6世代。アメリカ、イギリス、5世代。日本、4世代。ノルウェー、スウェーデン、3世代。デンマーク、2世代。OECD平均、4.5世代です。
日本は比較的に社会上昇が容易だと思われています。この指標でも早いほうですが、それでも4世代かかるのですね。

市町村アカデミーの業務継続

市町村アカデミーでは、今日から3つの科目が始まりました。職員研修の企画と実践市町村税徴収実務監査事務の3つです。9日間と11日間の研修で、合計100人を超える研修生を受け入れます。

心配なのが、新型コロナウイルス感染症です。研修申込者の中にも、直前に取りやめる人も出ています。今のところ職員にも研修生にも感染者は出ていません。できる限りの対策を取っていますが、安心はできません。
急速に拡大しているコロナウィルス、今回のオミクロン株はこれまでのものと比べて重症になるのは少ないようなので、社会活動は制限しつつ続けられるでしょう。

そこで新しく出てきた課題が、業務の継続です。
職員は感染していないのですが、子どもさんの学校や保育園で集団発生があり念のために職員が自宅待機をする場合、家族に感染者が出て濃厚接触者になった場合などが想定されます。
在宅勤務できる業務もあるのですが、研修現場での対応は出勤が必要です。科目担当は、主担当と副担当を決めてあります。そのような職員が出ても人数が少なければ、周りの職員が代わりを務めることができます。自宅勤務者が多くなると、別途対応が必要です。
この問題は、自治体現場でも同様でしょう。

命・暮らしの支え手

1月15日の朝日新聞1面に「濃厚接触待機、10日間に 命・暮らしの支え手、最短6日も 新型コロナ」という記事が載っていました。
・・・新型コロナウイルス感染者の濃厚接触者の待機期間について、厚生労働省は14日、オミクロン株の感染拡大地域では、現在の14日間から10日間に短縮すると発表した。介護や育児サービス、生活必需品の小売りなど、命や暮らしを支える「エッセンシャルワーカー」は、検査で陰性を確認し、最短で6日に短縮できるようにする・・・

「エッセンシャルワーカー」を「命や暮らしの支え手」と、言い換えています。良いことですね。
「エッセンシャルワーカー」と言われても、何を指すのか、どのような職業が含まれるか、はっきりと言える人は多くはないでしょう。私もそうです。命や暮らしの支え手と言われれば、たいがいの人は想像ができるでしょう。
このように、カタカナ語は、なるべく日本語に言い換えてほしいです。これも、マスコミの役割だと思います。

と書いたら、16日の朝日新聞「水道管に規格外塗料 東京や横浜で一部工事中断」に、次のような表現がありました。
・・・一部の水道管に認証規格をクリアしていない塗料が使われており、東京都や大阪市などが更新などの工事を中断していることがわかった・・・
「クリア」なんて言葉を使わず、「認証規格を満たしていない塗料が」で良いと思います。

黒江哲郎著「防衛事務次官冷や汗日記」

黒江哲郎著「防衛事務次官冷や汗日記 失敗だらけの役人人生」(2022年、朝日新書)を紹介します。
以前このページでも紹介した、黒江・元防衛次官による、仕事の記録、反省記です。インターネットに掲載されたものが、朝日新聞のウエッブサイトに転載され、今回加筆して本になりました。「黒江・元防衛次官の壮絶な体験談」「黒江・元防衛次官の回顧談4

官僚の仕事ぶり、そして防衛省の仕事の変化を書いた、貴重な証言です。
前者について。
「冷や汗日記 失敗だらけの役人人生」と表題についています。失敗と苦労が生々しく書かれていて、防衛官僚の苦労と黒江さんの生きざまがよくわかります。
黒江さんは、過労とストレスで6回も倒れました。退官した直後にも、救急搬送されます。
しかし、その冷や汗と失敗は、黒江さんが未熟だったから起きたものではありません。本人はそのように謙虚に書いておられますが、次に述べるように、防衛庁の役割変化と、防衛官僚に求められる仕事が急速に変化したことによるものです。「平穏無事に」前例通りの仕事ですむような職場では起こらない失敗です。
黒江さんは、平穏無事な仕事場から休みのない緊張の続く職場へ、そしてその急速な変化に参画します。これまでにない事件が続発し、簡単に結論が出ない事案で途方に暮れ、板挟みに悩みます。それはしんどいことですが、官僚としてはやりがいのある、力量を発揮できる場面です。
黒江さんだからこそ、その変化を乗りきることができたのでしょう。官僚の後輩たちに、大いに参考になる記録です。

後者について。
平成以降のわが国を取り巻く国際安全保障環境が大きく変化し、防衛庁・防衛省の仕事が大きく変わった、変わらざるを得なくなりました。それまでの通念、常識が通用しなくなったのです。
戦後の日本では、自衛隊と防衛省がいわば「日陰者扱い」され、また「出番」も少なかったのですが、周辺国との緊張の高まりから、任務が重くなり脚光を浴びるようになりました。その変化、改革に参加した官僚による記録です。
北朝鮮工作船との銃撃戦、北朝鮮のミサイル発射、中国の挑発、自衛隊のイラク派遣撤退といった事案への対処とともに、総理官邸、安全保障・危機管理室の様子、イラク現場の緊張感が書かれています。これは、貴重な証言です。

防衛官僚が何をしているか、世間では知られていないと思います。
また、大臣のズボンに醤油をかけた事件、総理から電話のかけ方を教わったり、総理から国会内でお叱りを受けたこと。お詫びで頭を下げすぎて、ぎっくり腰になったことなども書かれています。
重要な仕事やしんどい仕事が、黒江さんの軽妙な文章で書かれています。読みやすいですが、内容は重いです。

中国の体制が必要としている反日感情

1月9日の読売新聞、エマニュエル・トッド氏の「アジアの地政学 米の強硬姿勢 譲らぬ中国」から。
・・・ 日本の安全保障の基軸は日米安保体制だと承知はしています。私の考えは日本の外交安保専門家と違う。その上で日本人に米国の戦略的思考について考えてもらいたい。米国の対中戦略が軍事的気配を帯びてきた今、特に大事です。
米国の旧来の戦略思考は国家間の関係を憎悪と捉え、究極的な解決策は戦争としてきました。

日本は大変発展した島国で、中国という強大な国が隣にある。
中国は近年、軍備を増強し、南シナ海などに基地を複数設置している。台湾に対し主権を断念することはない。日本とは歴史的な争いがある。日本は中国の大半を侵略した過去がある。日本は独自の軍備増強も含めて現実的に安保を考える必要があります。
ただ理想主義も重要です。戦争の可能性だけでなく、平和の可能性についても検討しなければなりません。つまり日本が中国と良好な関係を改めて築くことです。今はその好機と私は考えます。

中国の反日感情は中国の体制が必要としている。国内の不満、今日で言えば経済格差拡大に対する民衆の不満をかわす必要がある。日本はいけにえのヤギです。
米国が今、中国の敵として立ち現れている。日本が中国に嫌悪される理由はなくなったはずです。
米中対決という重大な危機を武力ではなく、分別で解決することは21世紀の人類の務めです。日中関係が改善すれば、米中間の緊張は幾分和らぐでしょう。日本は大事な鍵を手にしています・・・