12月16日の朝日新聞オピニオン欄、「自宅療養 その現実」から。
・・・病床が逼迫した新型コロナの第5波では、ピーク時に自宅療養者が全国で13万人に上り、命を落とす人が相次いだ。自宅療養の現場で何が起きていたのか。新たな変異株の脅威が迫る中、第6波に向けて何を教訓とすべきか。東京都内で約210人の自宅療養者を診察した「ひなた在宅クリニック山王」の田代和馬院長に聞いた・・・
――コロナ患者はそもそも自宅で療養できるものなのでしょうか。
「『自宅療養』への最初のイメージは、入院する必要のない人を自宅で治療すると、文字通りそういう意味だと思っていました。確かに患者全員の入院は、感染が爆発した状態では非現実的で、我々が家でできる治療をする必要が出てくるとは思っていました」
「だけど、現実は違った。第5波では、本来入院すべき人の多くが入院できず、『医療崩壊』としか言いようのない状態に陥りました。自宅療養ではなくて、言ってしまえば自宅待機でしたし、待機できているのかもわからない。『自宅放置』されていたのが現実です」
――実際に見た現場は。
「初診時に半数の107人が『中等症Ⅱ』でした。呼吸不全があり、酸素投与が必要な患者です。患者の中には息が吸えず、顔色が真っ青になっていく人がいて、本当に死をリアルに感じ続けた期間でした。あまりにもしんどくて動けず、汚物を漏らして尊厳が完全に失われた環境に身を置かざるを得ない人もいました」
「自宅療養は、軽症でリスクの少ない人が氷囊(ひょうのう)を載せて休んでいるというイメージです。呼吸が困難な中等症以上の人には、自宅療養との言葉は使うべきではない。重症化するタイミングが予見しにくく、治療は酸素とステロイドしかない。戦場に竹やりだけで挑むようなものです。入院できないのはある程度仕方ないと思う半面、十分な治療ができなかったことが一番の問題だと思います。コロナに感染した途端、医療体制から断絶されているという非常に逆説的なことが起こっていたのが、自宅療養の現場でした」
――今後の感染拡大に備え、何が必要ですか。
「コロナ病床として確保された病床に入院できない『幽霊病床』をなくすことです。コロナ病床を引き受けるのならば、とりあえず患者を受けてほしい。病院に『これ以上悪くなったら何もできないから、受けられません』と断られたこともあった。そうなれば結局、僕らが『入院先が見つかりません。もうだめです。すみません』と患者さんに自宅で伝えることになる。どんどん下請けに流れてきているだけじゃないですか」
――幽霊病床の背景として医師や看護師の不足が指摘されています。東京では確保病床の使用率が最も高い時でも71%でした。第6波に向けて、政府は病床の増床や「見える化」を掲げています。
「神奈川県や千葉県は第5波でも病床使用率が80%を超えていました。東京では最も厳しい8月中旬でも6割程度だったのに、どこへ掛け合っても『満床』と告げられていました。『マンパワー不足』だけで説明がつきますか。『助けられないかもしれないけど、連れてこい』と言って欲しかった。90%までいっていたら、医療崩壊なんて起きなかった。検証されるべきだと思います」
「使用率を上げるには、空床情報の可視化が必要です。リアルタイムで『どの病院でどの重症度の病床が何床』と具体的な数字を示し、医療関係者がオンラインで見られるようにしてほしい」