朝日新聞別刷り「GLOBE」12月号、ノリーナ・ハーツ、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン名誉教授へのインタビュー「孤独危機、背景に新自由主義。つながり再生へ、一人ひとりが動くとき」から。
――孤独は世界的な課題なのですか。
はい。ここ数十年の間に孤独だと感じる人の数が着実に増えています。英国の年金受給者の5人に2人が一番の友人はテレビだと答え、世界のオフィスワーカーの半数近くが職場では1人も友人がいないと考えています。孤独は日本に限った問題ではありません。
――現状を危機と呼ぶ理由は何ですか。
孤独の悪影響が深刻だからです。孤独は心の健康だけでなく、体の健康にも影響を与えます。心臓病やがん、認知症のリスクを増大させ、1日に15本のたばこを吸うのと同様の害があると言われており、公衆衛生の面で社会に多額の経済的負担を生じさせます。
――なぜ孤独が深刻化したのでしょう。
多くの要因があります。まず私たちは、以前より地域の集まりや組織に参加しなくなりました。都市化も要因の一つです。多くの人の中でひとりぼっちのときほど、孤独を感じることはありません。別の主な要因がテクノロジー、特にスマートフォンです。
――どういうことですか。
若者の孤独に大きな影響を与えているのが、スマートフォンとソーシャルメディアです。米スタンフォード大学の調査で、フェイスブックのアカウントを2カ月停止したグループのほうが、使用を続けたグループより著しく幸福感が高く、孤独感が低いという結果が出ました。ソーシャルメディア上の交流の質は、対面での交流に劣ります。対面なら身ぶり手ぶりで伝わることも伝わらず、相手への共感も生まれにくいからです。またソーシャルメディアでは憎悪やいじめが横行し、多くの人が疎外感を抱いています。
――孤独を減らすために何ができるのですか。
政府、企業、私たち個人のすべてに果たすべき役割があります。まず政府は、英国や日本にあるような孤独担当大臣のポストを作るだけでは不十分です。多額の予算や大きな権限を与えなければ、問題解決を期待することはできません。また英国では孤独対策のお金の大半が慈善団体への助成に使われていますが、公共図書館などのコミュニティーのインフラへの投資も必要です。さらに英国などでは、地域の大通りにお店がないという問題もあります。地域の店は人々のつながりを作るために重要です。もし家賃が高いためにカフェやレストランなどができないというのであれば、自治体は地域向けの事業に特別な税区分をもうけることもできます。またソーシャルメディア企業への規制も政府ができる重要なことです。
――私たちが個人としてできることは何ですか。
まず意識的にスマートフォンを置いて、周囲の人たちと対面で向き合う時間を増やすことです。ほかにも地域のカフェやジム、ヨガスタジオなどに実際に顔を出し、地域のコミュニティーを支えることもできます。知り合いに孤独を感じている人がいれば、電話をかけることも大切です。ソーシャルディスタンスを保ちながら実際に会ってもよいし、メッセージを送るだけでも、あなたがその人のことを気にかけていると示すことで、相手の気持ちは大きく変わります。