新しい試みに反対する人、後押しする人、実現する人1

公務員批判の定番に、前例主義があります。前例のないことは、しないのです。すると、新しい課題に取り組むことが遅れます。
私も、霞が関や県庁で、この慣習にしばしば遭遇しました。新しい試みを考えて相談すると、何人かの人は背中を押してくださるのですが、多くの人は反対します。しかも頭の良い人は、即座にその案の問題点をいくつか指摘して、私の案をつぶしてくれます。没にしなくても、「問題があるから慎重に検討して」と先送りされます。これも結果としては、つぶれたことになります。

課長補佐の時に、その慣習に染まりかけたときです。ある決裁を、E官房審議官に持っていった際に、いくつか違う案を提示されました。私の方が「これまで、これできましたから」と回答すると、「君は柔軟だと聞いていたけど、頭が硬いなあ」と笑われました。E審議官は私の席の経験者なので、「E審議官も課長補佐の時に、このようにされたのではないですか」と反論したら、「おかしいと思っていたんだ。君の時代に変えることを検討しろ」と言ってくださいました。
自席に帰ると、課長が「Eさんから電話があったけど、君のことを『頭が硬い』と笑っておられたぞ」と話しかけてこられました。E審議官は、私を笑いつつ、課長に変更の根回しをしてくださったのです。

以来、自信を持って「改革派」を名乗りました。そのうちに、周囲も「全勝は変えることが好きな奴」「あいつは、じっとしていない奴だ」と烙印を押してくれたようです。褒め言葉でない場合が多かったです。とはいえ、前例通りという霞が関の気風「大きな壁」は、私一人では変えることができませんでした。

総理秘書官になって、総理からの指示で、あるいは総理と相談し、慣習を変えたり、新しいことに取り組みました。もちろん、一気に大きな変更は無理です。そこは心得つつ、総理の意向を背景に、官僚機構に働きかけました。
もう一つは、東日本大震災対応です。千年に一度の大津波と日本が初めて経験した原発過酷事故。前例がないのです。しかも、目の前には47万人もの被災者がいます。「前例がない」「慎重に検討して」とは言っておられません。被災者生活支援本部に来てくれた各省の官僚たちも、知恵を出して次々と新しいことに取り組んでくれました。
中には少数ながら「前例がありません」というセリフを繰り返す人もいました。私はそのような場合には「千年に一度の津波だから、千年前の大宝律令も調べてね」と返しました。もっともそのような人には、この冗談(皮肉)は通じませんでした。
この項続く