11月10日の読売新聞文化欄「リーダー論 中」「求める姿 強さから優しさへ」から。
・・・出版文化史の横手拓治・淑徳大教授は、ベストセラーを通して「大衆の心性」を探る研究をしてきた。横手教授によると、理想のリーダー像は、20世紀と21世紀とで大きく変化した。それは、〈1〉指示型から支援型へ〈2〉垂直目線から水平目線へ〈3〉クリティカル(批判・批評的)から温容へ——の三つに特徴づけられる。
つまり、上から目線でダメ出しして指示を出すようなリーダーは、いまや求められていない。21世紀は相手に共感し、そっと背中を押すようなリーダーが理想視されているというのだ。
年間ベストセラーを振り返ると、1964年の東京五輪で日本女子バレーボールチームの監督を務めた大松博文の『おれについてこい!』が、同年の5位、翌年の3位を記録した。作家・石原慎太郎の『スパルタ教育』は、70年の9位だった。横手教授は「戦後から90年代までは、必死に頑張れば幸せになれる時代。だから人々は、自分を引っ張ってくれるようなリーダーを求めていた」と説明する。
その理想のリーダー像は、21世紀になると変わり始め、10年代にはよりはっきりする。ベストセラーには、自己啓発の要素が入った本が激増した。『チーズはどこへ消えた?』(2001年1位)、『夢をかなえるゾウ』(08年2位)など、読者自らが、内面の困難解決能力などを引き出すことを、著者が優しく見守るようなつくりだ。横手教授は「このスタンスこそ、今の大衆が求めるリーダーシップ。『リーダーシップのないリーダー』が求められている」と強調する
長引く経済成長の停滞や少子高齢化などによる閉塞感の中、多くの人は疲れ果てている。「そんな時に上から指示されてもついていけない。エリートがいくら現状を批判し変革を訴えても、心に響かない」。さらに農村社会の日本は、「優しい」リーダーこそ、元々理想視されていたとみる。「今後、強いリーダーが求められることは、かなり減るだろう」・・・