付加価値をつける2

付加価値をつける」の続きです。今回の話は、幹部候補や職員ではなく、管理職や経営者についてです。
前任者から、組織を引き継ぎます。そして、数年したら、次の人にその組織を引き渡します。その際に、どれだけ付加価値をつけたかで、その人の評価が定まります。
1 引き継いだ組織を「大過なく運営し」、次に引き継ぐ。これは、まずは及第点でしょうか。
2 組織の売り上げを伸ばす、株価を上げる、評価を上げて引き継ぐと、高い評価がもらえます。
3 組織を食いつぶす人もいます。売り上げが落ち、株価が下がり、評価も下げた人です。

ところで、1の大過なく引き継ぐは、3の評価を下げることになる場合があります。すなわち、その組織の売り上げや株価が横ばいでも、世間は発展しています。すると、現状維持は、相対的に沈下していることになります。
「善管注意義務」(「善良な管理者の注意義務」の略。業務を委任された人の職業や専門家としての能力、社会的地位などから考えて通常期待される注意義務のこと)を果たしたことになるのでしょうが、管理職や経営者はそれでは困るのです。

売り上げがない組織、行政はそれに当たるのですが、「世間の評価」が株価に相当するのでしょう。

オンライン授業で勉強時間が増えた

11月20日の朝日新聞夕刊「課題地獄の嘆き、いまも オンライン授業拡大、背景に」から。
・・・コロナ下で大学にオンライン授業が普及して以降、急浮上した問題の一つが「課題地獄」だ。「教えた内容が身についているのか不安」などの理由で各教員が多くの課題を出し、学生たちが疲弊した。その後、大学の対応は進みつつあるものの、道半ばのようだ・・・

・・・コロナ禍を受け、各大学では昨年春以降、オンライン授業が一気に拡大。多くの教員が、教えた内容が身についているかどうかを確認する手段として、あるいは試験が実施できない時の成績評価の代替手段などとして、リポートや動画などの提出を求めた。金子元久・筑波大特命教授(高等教育論)は「日本の大学では教員同士の連携が少なく、それぞれ独自に授業を進める傾向が強い。このため各教員が、オンライン授業の導入当初は互いに調整せずに多くの課題を出し、『課題地獄』という問題が起きた」と話す。
大量の課題をこなすために、学生たちの勉強時間は増えた。学生を対象とした日本学生支援機構の2020年度の調査によると、「授業の予習・復習、課題などに、1週間に6時間以上使った」と回答した割合は51%。コロナ前の18年度に比べて23ポイントも上昇した・・・

・・・コロナ前は国の基準ほど勉強していない学生も多く、朝日新聞と河合塾の調査では「負担が増えたと言っても本来学ぶのに必要な時間でもあり、授業内容の理解は深まっている」(関西の公立大)として、課題の増加を問題視しない大学も一定数あった。
金子特命教授は長年、日本の学生の勉強時間の少なさを問題視してきた研究者の一人。「大量の課題が出されたことで、苦労もあったとは思うが、多くの学生は対応することができた。勉強時間が増えたのは歓迎すべきことだ」と話す・・・

教員の慢性的長時間残業を変える

11月29日から朝日新聞で、連載「いま先生は」が始まりました。第1回は「第1部・授業が仕事なのに:1 事務作業、追われる先生 休憩も授業準備もできない」です。
・・・「定額働かせ放題」とも言われる教員の長時間労働。その実態を伝える連載「いま先生は」を始めます。第1部では、本来の仕事である授業に注力できない現実を報告し、学校現場の働き方のこれからを考えます・・・

・・・神奈川県の公立小学校の職員室。夕闇が迫るなか、4年生の担任を務める30代男性教諭は、パソコンのキーボードをたたいていた。
放課後になってからずっと、机から離れられずにいる。運動会準備の打ち合わせ、予定表の印刷、時間割の修正……。出勤して11時間近くたつのに、休憩できていない。給食は数分でかきこんだ。帰宅の準備をしながら思う。「きょうも自分の仕事ができなかった」
仕事とは翌日の授業準備だ。一番大事なことをおろそかにしているうしろめたさを、常に感じている・・・

学校教員の慢性的長時間残業、かなり以前から指摘されています。でも、改善されていないようです。私に一つ提案があります。
文科省官僚、県教委職員、市町村教委職員、校長あるいは副校長の4人を一組として、10組ほどを世界各国の学校に1年~2年ほど派遣できないでしょうか。よその国の学校は、そんなに残業をしていないようです。日本と何が違うかを、見てきてほしいのです。

インターネットの悪用を防ぐ

11月18日の日経新聞オピニオン欄、イアン・ブレマー氏「テック企業から民主主義守れ」から。

・・・米フェイスブック(現メタ)は30億人に社会的交流や情報、ニュースを提供するプラットフォームを運営している。このため、評論家や政治家、規制当局者らが、同社は収益向上のため極端で悪意に満ち、うその多いコンテンツ拡散を助長していると非難してきたことは非常に重要だ。マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)はこうした非難をはねつけているが、どの国の政府も同社が及ぼす脅威に気付き始めている。
公正を期すために言うと、フェイスブックは規制を求める声に抵抗していない。民主主義を守る直接的な責任を負うことなく、利益を上げて競争力を維持したいと考えているだけで、世論を分断するつもりはない。経営陣はインターネット全般やSNS(交流サイト)を対象にした新たな規制を定めるよう政府に求めている。SNSのあり方や情報掲載可否の判断基準が、全ての企業に公正に適用されることを望んでいるのだ・・・

・・・フェイスブックを解体したり、別の方法で弱体化したりすることなく、社会の分断を阻止する解決策はある。1つは政治広告の禁止だ。そうすれば政治の偽情報拡散は抑えられ、議論のレベルが上がる。2つ目はサイト全体で国内政治の重要度を抑えることだ。3つ目は全てのユーザーが実在の人物であることを確認することだ。匿名アカウントやボットは認めない。全ての利用者がヘイトスピーチや偽情報を禁止するルールに従うことに合意・署名したうえで、ルールを破って追放された人が、新たな名前を使ってサインインできないようにする。
これらの方策は、デジタルテクノロジーがもたらす様々な問題に対処する一歩となるだろう。規制当局や市民は、テック企業が力を増しつつある社会にどう適応するのが最善か、世界全体で議論すべきだ。各国の首脳は1990年代半ば以降、気候変動への対策を毎年協議している。海面上昇や不安定さを増す気候パターンと同様に、テック企業が民主主義や社会に及ぼす害を抑えるため、即座に対策を講じなくてはならない・・・

小柳建彦・編集委員は、次のように補足しています。
・・・フェイスブックは近年コンスタントに毎四半期10億件超の偽アカウントを削除している。直近7~9月は18億件削除した。それでも1億近い偽アカウントが監視をすり抜けて活動中という。
大多数は、見知らぬ人からの「友達」申請に応じてしまう個人を狙って金銭などをだまし取ろうとする犯罪目的とみられる。一方、世論操作のため国家や政治家、思想集団がSNS上に設けた大量の偽アカウントは、陰謀論などの有害情報を拡散している・・・
詳しくは原文をお読みください。

仏教を生かした授業

朝日新聞の教育欄で、仏教系学校での医学を目指す生徒への教育について、連載が載っています。11月21日の「医の心、育む:1 医の道、心もケアしたい」から。
・・・10月下旬、午前8時半をまわると、紫色の巾着袋を手にした高校2年生たちが、黄金色の阿弥陀如来像を置く講堂に集まってきた。福岡市中央区にある筑紫女学園中学・高校の朝の勤行=おつとめだ。
「姿勢を正してください」
仏教委員長の赤司瑞祈(あかしみずき)さん(17)の凜とした声を合図に、講堂が静まりかえった。
「黙想」
香炉から広がる柔らかい香りに包まれ、およそ420人の生徒たちの表情が穏やかになっていく。
澄んだ鐘の音とともに、宗教担当の平孔龍(たいらこうりゅう)先生(44)のお経が講堂に響きわたる・・・

・・・学校は浄土真宗の教えに基づく人間教育を建学の精神とする。生徒たちは礼拝や仏教の授業を通して、他者をいたわる慈悲の心や、命の大切さを学ぶ。
その仏教の視座を身につけ、医療の道をめざす生徒が学ぶ「医進コース」が誕生したのは2020年春のことだった。松尾圭子校長(64)は、訪問した大学の医学部の先生の言葉が忘れられない。
「医者は日々、精神が不安になる患者と接する仕事。そういう気持ちをくみ取って話ができる医者じゃないと困る」
さらに、力説された。
「受験の成績がよくて合格しても、患者に向き合えるだろうかと心配になる学生もいる」、と。
学校には、医学や看護学といった学部がある大学に進学したい生徒が多く在籍する。
松尾校長は「医学部をはじめ医療系の難関学部への合格可能な学力のある生徒に、進路先を偏差値基準で薦める指導はするべきではない。医の道に進んで何をしたいのか、受験に臨む前から明確にしておくことが大事なのではないか」と思いを深めた。
人の痛みがわかる仏教の教えは、医の道に進む生徒たちの学びの素地にもつながるのではないかと考え、志を同じくする生徒が集まるコースを立ち上げた・・・

学校教育で避けてきたのが、心の問題、宗教などです。学生たちの今の不安、将来への不安にどのように対応するのか。これも、教育現場での大きな課題です。