改善を提案すると仕事が増える、組織文化

10月2日の日経新聞「三菱電機 工場あって会社なし 品質不正で調査報告書」から。
・・・三菱電機の品質不正問題を受け、調査委員会が1日公表した報告書は、従業員が会社全体よりも「工場や製作所の利益」を優先する体質が背景にあると指摘した。経営陣の現場に関与する姿勢が弱く、本社に不信感を持つ現場との情報共有も乏しかった。それが長期にわたる不正の放置につながった。企業風土や緩い統治体制を根本から立て直せるかが問われている・・・

・・・ある従業員は調査委員会の聞き取りに対し、不正検査の問題を報告しても「『それでは、あなたたちで改善してね』と言われるだけ」と回答。「改善を提案すると、言い出した者がとりまとめになり、業務量を調整してもらえず、単純に仕事が増える」との声もあった。「是正が現場に丸投げ」されるため、現場は本社への不信感を募らせた。本社と現場の間で断絶が起き、不正が長期間見過ごされてきた。
鉄道向けの空調装置や空気圧縮機で検査不正が発覚した長崎製作所(長崎県時津町)。不正について「相当数の従業員が認識していた」が、それを正そうとする機運は出てこなかった。ある従業員は「国内顧客は細かいことを言わないで任せてくれる」と打ち明けた。現場は「下手に突っ込むと生産が成り立たなくなる」と自分たちの論理を優先した・・・
・・・現場で問題を認識しても、情報は本社に共有されなかった。内部通報制度もあったが「匿名と言いながら、通報者をあぶり出すのではないか」と現場は疑心暗鬼になった・・・

詳しくは、記事をお読みください。記事には「役員は関与していなかった」と書かれていますが、それは免罪符にはなりません。部下が法令違反をしていながら、それを知らなかったのですから。中間管理職は板挟みになって、悩んだでしょうね。
このような事態は、どの職場でも起きる可能性があります。多くの組織で「細かい実務は部下に任せる」上司が良い上司と思われてきました。仕事がうまく回り、部下もやりがいを持って仕事をしていれば、これはよいことです。
ところが、部下が困っているのに上司が知らない組織は、悪い組織です。上司が、管理職の仕事をしていないのです。また、部下が声を上げられないのは、そのような職場にしている上司の責任です。

私の心配は、役所がそのような状態になっていないかです。新しい政策を考える場合は、上司も一緒になって進めますから、この心配はありません。問題は、過去から引き継いでいる「定例業務」「日常業務」です。調査統計などが当たります。このような業務は、過去から引き継いでいる、職員が前任者か引き継いでやっている、そして上級職でなく中級職や初級職がやっていたことから、課長がしっかり把握していないことが予想されます。まさに「関与していない」のです。
担当職員は、「前任者もやってきたことだから」と前例通りに処理します。また、それが期待されます。ところが、そのような事務が次々と積み重なって、大変な労力を割いています。
見直しをしようとしても、そのために仕事が増えるのです。また、新しい政策をつくると評価されますが、業務の簡素化はさほど評価されません。それでは、簡素化に取り組む意欲はわきません。

苦笑・正直な人

最近経験した、笑い出しそうになった話を、少し改変してお伝えします。また関連して、思い出した場面も載せておきます。
二人の人が、挨拶をしています。
場面1
Aさん いつもお美しいですね。
Bさん はい。あなたは正直な人ですね。

場面2
Cさん お急ぎでしょうか。
Dさん はい、急いでいます。

場面3
Eさん 私は仕事が遅くて・・。
Fさん そうですね。あなたは仕事は遅いし、内容も悪いし。

場面4
Gさん いつもお世話になっております。
Hさん はい、いつも世話をさせてもらっています。

連載「公共を創る」執筆状況報告

恒例の、連載「公共を創る 新たな行政の役割」の執筆状況報告です。
紙面では「第4章政府の役割再考」の「1社会の変化」が続いていますが、これが10月21日で終わります。執筆の方は、「2社会と政府」に入りました。

そのうち「(1)社会を支える民間」の前半を書き上げ、右筆たちの厳しい指摘を反映して、編集長に提出しました。編集長に誌面の形にしてもらったら、3回分、10月28日号から11月18日号までになりました。

このように書くと、余裕があるように見えますが、10月中には、続きを数回分書き上げなければなりません。すでに着手はしているのですが。常に締めきりに追われる、自転車操業です。精神衛生上、よくありませんね。2か月分くらい貯金していると、もう少し余裕が出るのですが。

今回は、「社会を支える企業」「変わる企業の社会的役割」についてです。これまでに各章で書いた話もたくさんあり、それらを含めて整理しました。
社会の変化によって、これまでの教科書的説明が役に立たなくなっています。それを説明したいのです。

手帳の使い方

9月28日の日経新聞夕刊「ビズワザ」は「仕事に役立つ手帳選び」でした。パソコンやスマートフォンで、日程を管理する人も増えています。他方で、手書きの手帳派も根強いそうです。日程管理だけでなく、頭の整理や日々の記録に活用するためだそうです。活用法は、この記事を読んでください。

私は、大まかな行動予定は、電子メールで秘書やキョーコさんに毎週伝えます。変更があった場合に加筆が簡単で、そして共有するのが簡単です。
他方で、日程管理は、手帳でやっています。これは、長年の習慣です。スマホでもできるのでしょうが(私はスマホを持たないのでだめですが)。手書きで書き込むことで覚える、1週間が一覧で見ることができるなどが、私に合っています。

そして、手帳派の多くの人と同様に、何をしたかの記録も書き込んでいます。「手帳は予定を書くもので、日記は過去を記すもの」とは、加藤秀俊先生の言葉です。
私は日記帳を持たないので、手帳が日記代わりです。書斎には、結構昔のものから残っています。今後、見ることはないのでしょうが。このホームページも記録なのですが、何をしたかは詳しくは書いていません。人様に見せるのは恥ずかしいこともあるので。

もう一つ、しなければならないことの計画管理は、1枚の罫紙に書き出します。仕事関係、講演会の予定、執筆の予定、その他の雑件です。これを毎週のように書き換え、何をしなければならないか、どれを優先するかを考えます。日程管理と業務管理は別物だと、『明るい公務員講座』にも書きました。
この作業は手で書くことで、仕事の優先順位、それぞれの仕事の進め方、かかるであろう時間を考えることにつながります。どこで、執筆の時間を確保するかもです。これが、手帳や日程管理表ではできないのです。

メルケル首相評伝

マリオン・ ヴァン・ランテルゲム著『アンゲラ・メルケル: 東ドイツの物理学者がヨーロッパの母になるまで』(2021年、東京書籍)を読みました。フランス人ジャーナリストによる、メルケル首相の評伝です。フランス人から見たメルケル首相、その生い立ちから、政治家としての経歴をたどります。

当時の東ドイツは、社会主義という名の下の独裁国家、市民が秘密警察の手下となり、お互いに密告し合う社会です。しかも、危険視される宗教の牧師の娘として成長します。それが、彼女のよく考えてからものを言う性格をつくります。
頭のよい科学者だった女性が、東ドイツ崩壊に遭遇し、政党で働くことを選びます。そこからは、あれよあれよという間に、出世街道を駆け上り、野党党首、そして首相へ、さらに4期16年という長期政権を維持します。国民支持率は、50%を切ったことがないそうです。

冷戦終結、ドイツ統一という「時」もありました。東ドイツ出身で女性を求めていたコール首相の目にかなったという「地」もありました。しかし、それだけでは首相にはなれません。西ドイツの男社会であるCDU(ドイツキリスト教民主同盟)の中で、権力をつかんでいくのですから。この本では、育ての親のコール首相を葬ることをしたことを、説明しています。コール党首時代のCDUに醜聞が出たときに、新聞に意見を公表することによってです。

翻訳も良く、わかりやすい内容です。ただし、分量が少ないこともあり、彼女の政治の手法や政策の評価については、あまり書かれていません。ドイツ(西ドイツ)の首相は比較的在任期間が長いのですが、16年間も維持するにはそれだけの理由が必要です。これは、別の本を読まなければならないのでしょう。
私が若いときに読んだ世界のリーダーは、チャーチル、ルーズベルト、ドゴール、ケネディたちでした。その次は、ジスカールデスタン、シュミットでしょうか。近年だと、サッチャー、ゴルバチョフ、ブレア、そしてメルケルでしょう。