自民党の評価

9月7日の朝日新聞オピニオン欄、久米晃・元自民党事務局長の「向かい風の自民党」から。

――選挙参謀を務めながら、自分のことを「自民党支持者ではない」と言うことがありますね。
「私は保守の人間であって、無原則な支持者ではありません」
――保守とは、どういう意味で言っていますか。
「日本の歴史と伝統文化を守り、常識と秩序を守る態度のことだと思っています。常識は時代に応じて変わるものだとは思いますが、あまり変えたくはない」
「保守の私からみても、自民党の政策が間違っていると思うことはあります。感染症対策も災害対策も、不十分だった点があると言わざるを得ません。個人的には、党の考え方すべてに賛成していたわけではありません」
――自民党の支持者もそうでしょうね。
「世論調査で有権者が『自民党支持』と答えたからといって、すべての人が自民党候補に投票するなどということはありません。勝てる候補は自民党支持の8割の票を取りますが、負ける候補だと6割しか入らないのが実態です」
「自民党支持というのは固い支持ではなく、ゆるやかな『期待』のようなものです。『保守的な無党派層』と言った方が近いかもしれない。よく無党派対策が必要と言われますが、自民党支持を固めることができるかどうかが、昔も今も選挙対策の基本です」

――近年の有権者の心理をどのように見ていますか。
「昭和の時代、自民党にとっては『夢と希望』を語るのが選挙でした。所得倍増、列島改造、経済の復興が代表的です。ところが、ある程度の生活環境が整うと、何を訴えればいいのか、見つけにくくなった。その影響で、平成以降の選挙は有権者の『不平と不満』の表明の手段になっている。政治に期待するものがなくなったということでもあります」
――そうなったのも、自民党の責任ではありませんか。
「そうですね。この状況を野党が作ったわけではない。ただ、国民の要求が多様化し、多くの人が納得できる『夢と希望』を語れるかというと、すごく難しい」

――自民党のありようも変わってきたということですか。
「そもそも自民党は欧州で見られるような政党ではないと思っています。ドイツのキリスト教民主同盟や社会民主党は、イデオロギーや思想があってできた政党で、そこから議員が出てくる。でも、日本の自民党は議員バッジをつけた人が集まって、政党を名乗っているわけです。質が違うと思いますよ」

行政の無謬性神話

先日、あるところで、行政の無謬性、官僚の無謬性が議論になりました。
行政の無謬性とは、行政は間違いを犯さないものだ、間違いを犯してはならないという考えです。私も官僚になった頃は、「そんなものかなあ」と程度に考えていましたが、経験を経るに従って、「それは真実ではない」「そんなことを言われても困る」と思い始め、「誰がそんなことを唱えたのだ」「やめてくれ」と思うようになりました。

問題を提起したのは、現役官僚です。彼も、行政の無謬性に疑問を持っていました。
私は、次のように考えています。
1 行政は間違いを犯してはいけない。確かにその通りで、法令の適用を間違ってはいけません。しかし、人間がすることですから、間違いも起きます。官僚も生身の人間です。民間企業の社員と変わりません。

2「絶対間違いを犯してはいけない」と主張するなら、それなりの手当が必要です。
例えば、「法案の記載誤り」が厳しく批判されました。法律改正の重要な内容に間違いがあってはいけませんが、重要でない部分や参考資料の記載誤りについてそんなに問題視することでしょうか。訂正すれば済むことでしょう。そのような間違いもしてはいけないというなら、人と時間を増やしてください。
もし私が当事者の官房長だったら、国会での釈明の際に、「申し訳ありません」と言いつつ、「しかし、現在の人員と限られた時間では、間違いも起きることがあります。法令本文には間違いがないように心がけますが、参考資料は正誤表で対応させてください」と答弁したでしょうね。

3 ここにあるのは、いまだに残る「官僚神話」ではないでしょうか。「官僚は優秀で、間違いは起こさない」というかつての神話です。一方で、エリートは認めないので、官僚を叩くという風潮です。
この問題の解決は、「官僚も普通の人ですから、間違いも起きます」と当たり前のことを認めることです。私なら追求されたら、「あんたも間違いを犯すでしょう」と反論します。
何か失敗が起きたら、しばしば「二度とこのようなことが起きないように、調査をして、再発防止に務めます」というような謝罪会見がされます。これも、やめた方がよいです。そうでなくても忙しい職員に、さらに仕事を増やすだけですから。その調査の結果、職員数を増やしてくれるならよいのですが、それを認めてくれないですよね。
「今後も失敗が起きないように注意して参ります(でも、人間のすることですから、また起きるかもしれません)」が正しいと思います。もちろん絶対間違ってはいけないことと、少々の間違いは許してもらえることとの区別はあります。
この項続く

自殺意識の高まり

9月1日の読売新聞に、日本財団の自殺調査結果が載っていました。「10代後半5%が自殺未遂」。日本財団「第4回 自殺意識全国調査報告書」。
詳しくは報告書を見ていただくとして、主な点は次の通り。

4人に1人が「本気で自殺したいと考えたことがある」
自殺未遂経験者は6%。
自殺念慮、自殺未遂ともに15~20代のリスクが高い。
「在職(休職中)」「無職(求職中)」、持病で「心の病気」を持つ層、疎外感や孤立感を感じている層、家族等に助けや助言を求める相手がいない層、周囲で自殺で亡くなった方がいる層などが1年以内の自殺念慮や自殺未遂の割合が高い。
自殺念慮や自殺未遂経験者の7割が自殺を考えた時に誰にも相談していない。
自殺念慮や自殺未遂経験がある層はない層に比べて、普段から家族に助言を求める割合が低い。

連載「公共を創る」で取り上げている孤独・孤立の問題が、はっきりわかります。

肝冷斎、今月のカレンダー

肝冷斎の9月のカレンダーは、恐竜です。拡大してご覧ください。
中国古典から古生物まで、博学です。ところどころに、怪しい生物が紛れ込んでいますが。このカレンダー(双六)は、子どもたち向けに作っているようです。

肝冷斎は、野球の観戦にも精を出しています。この夏は、オリンピックでの中断や長雨で、数はこなせていないようです。

欧米と中国の対立、日本の位置は

9月3日の読売新聞「竹森俊平の世界潮流」「欧米の対中競争「戦線」拡大…ワクチン・太陽光 パワーを左右」から。

・・・ところでシンガポール政府が公式に認めたワクチンは米ファイザー製、米モデルナ製だけだが、公式ではないものの、中国製ワクチンも接種が認められている。
シンガポールと中国の経済関係は強い。中国政府は有効なワクチンとして中国製だけを認めている。より高い治験成績を持つファイザー製、モデルナ製とも有効性を認めていないのだ。それで中国に出張の機会が多いシンガポール人は、仕方なく中国製ワクチンを接種する。

現在、主要先進国は中国製ワクチンの有効性を認めていないため、「ワクチン接種」が主要先進国への入国に必要になった場合、中国は孤立しかねない。
他方、世界保健機関(WHO)は中国製ワクチンを承認している。発展途上国でのワクチン接種は遅れている。欧米のワクチンは先進国での接種に回り、途上国へ供給する余裕がない中で、中国製は重症化率、死亡率を下げる効果があるとして、WHOは途上国への供給を念頭に承認したのだ。これを受けて中国は、アジア、ラテンアメリカの途上国に広範にワクチンを供給している。

中国は主要先進国への訪問の道を閉ざされ孤立するのか。194か国が加盟する国際組織のお墨付きを得た中国製ワクチンを、主要先進国はいずれ承認せざるを得ないのか。恐らくこれを決めるのは疫学的安全性だけではない。経済力も絡んでくる。ことはすでに「パワーポリティックス」に発展している。
中国市場を重視するドイツなどの企業人は、出張のために中国製ワクチンを接種するだろう。ギリシャ、スイスなど一部の欧州の観光国は、中国人観光客を期待し、すでに中国製ワクチンを入国条件に承認している。日本はどうするのか。いずれ中国製ワクチン接種の施設が国内にできるのだろうか・・・