栂井義雄著『日本資本主義の群像 ―人物財界史』 (2021年、ちくま学芸文庫)を読みました。日本の近代産業を率いた人としては、渋沢栄一が有名です。今年のNHK大河ドラマに取り上げられ、本屋にはたくさんの関連書籍が並んでいます。
この本は、渋沢栄一を筆頭に、明治から戦前までの財界人10人を取り上げて、その仕事ぶりを紹介したものです。簡潔にまとめられていて、読みやすいです。冒頭に、財界・経済界がどのようにしてできたのかが解説されていて、勉強になります。
歴史というと、政治家や武士が中心に描かれますが、経済を動かした人たちの役割も重要です。それら以上に、一般の人がどのように暮らしていたか、それがどのように変化したことの方がより重要ですが。こちらの方は、小説やドラマにはしにくいですね。
財界人10人で明治から戦前までの経済を描くのは無理がありますが、大まかな姿や時代の雰囲気が分かります。数字だけでは分からないことです。特に、近代産業が興り、成長する時代です。この人たちが中心になって財閥がつくられ、日本の産業界を引っ張ります。富国強兵・殖産興業を大方針とした政府と軍部の関係も、描かれます。
その後、才能と意欲のある個人が事業を起こす時代から、会社組織になって経営者が育成される時代になります。すると、特色ある個人事業家は少なくなります。
ところで、歴史小説にしろこの本にしろ、多くは成功者の話です。それは面白いのですが、他方で敗者もたくさんいます。それらも書かれていると、時代の動きがより分かり、また勉強になるのですが。それは、難しいですかね。