黒江・元防衛次官の回顧談5

黒江・元防衛次官の回顧談4」の続きです。
失敗だらけの役人人生、追補7は「信念岩をも通す(上) 情報本部の設立」、追補8は「信念岩をも通す(中) 防衛庁の省移行」です。

それぞれ、大きな組織改革についてです。役人だけではできない改革を、与党や官邸を巻き込んでどのように実現していくか。
部外者にはわからない、実態の一端を知ることができます。これも、貴重な証言です。

業績を左右する社風

会社にしろ、役所にしろ、あるいは学校にしろ、その会社の概要説明や内部規則だけでは、それぞれの組織の「体質」はわかりません。同じ業種でも会社が違えば、社風が異なります。霞が関の各省でも、社風が違います。それによって、楽しい職場であったり、業績が上がったりします。その逆もあります。企業風土、企業文化とも言われます。社風やお国柄が組織や国を強くすることは、私の研究対象の一つです。参考「組織の能力5。仕事の仕方と社風を作る」「福澤武さん、社風を変える2

週刊『日経ビジネス』8月16日号は、特集「良い社風、悪い社風 不祥事の根源か、改革の妙薬か」です。日経ビジネス電子版には、「三菱電機、みずほ、不祥事企業「誌上覆面座談会」 原因は社風に?」が載っています。覆面座談会は信憑性に疑いがあるのですが、一部を紹介します。これを読んでも、社風を変えることは大変でしょうね。

・・・日経ビジネスは不祥事を繰り返す企業の現役社員のインタビューを実施した。登場してもらうのは、2021年6月に長期にわたる組織的な検査不正をしていたことが発覚した三菱電機、2月から3月にかけて3度目となる大規模なシステム障害を起こしたみずほ銀行、15年に不正会計、20年以降には経済産業省と共同で株主に圧力をかけた問題が指摘された東芝の現役社員だ。自らが勤める会社の社風をどう捉えているのか・・・

ー企業で不祥事が起きると、根底には「あしき社風」があると指摘されます。勤務している企業の社風をどう捉えていますか。
三菱電機社員のDさん(40代):上司に意見を言わない風土はある。事業本部だと、担当、課長、部長、事業部長、本部長という序列があるが、トップである本部長は神のような存在だ。部長が本部長に直接話すと、間にいる事業部長はいい顔をしない。
本部長は(年度によって異なるが)いわゆる「1億円プレーヤー」だ。報酬の高さからこのポジションを目指す人は多く、上への忖度が半端ない。顧客と話していても「三菱電機は管理職の権限が強すぎる」とよく言われる。これが(経営陣も会見などで指摘している)「上にものが言えない風土」なのかなと。

東芝幹部社員のTさん(40代):よく言えば真面目、悪く言えば従順かな。仮に変だと思っても上が決めたことをやってしまう風土がある。
ただ、事業部門によって文化は違う。もう手放したけど、パソコンや半導体メモリー事業は動きが速く、自ら市場を開拓するためガツガツした感じだった。一方で重電はややのんびりしている。官公庁向けの業務も多く、顧客を見て仕事をしている雰囲気だ。

ーみずほ銀行はどうですか。第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の3行が合併して生まれましたが、どこかの社風を引き継いでいるのでしょうか。
みずほ銀行行員のMさん(50代):うーん、どこの社風というのは正直ない。ただ、興銀系のエリート意識はまだどこかに残っている。あとは縄張り争い。リテールが強かった一勧と富士で、それぞれ負けん気を出して行内で競い合った。そのパワーを外に向ければいいのに、内々の競争に使うんだから競合に勝てない。さんざんトラブルを起こしてきたシステム障害もこういった風土が影響していると感じている。
結局、「対等合併」という美名の下でくっついたのが良くなかった。主従がはっきりしていれば、内外から見てもわかりやすい。ところが、対等なんて適当なことを言うから、その後の縄張り争いにつながってしまった。今の社風を端的に表すなら「3行の悪いところだけ足し合わせた」という感じかな(笑)。

 

交ぜ書き

8月7日の朝日新聞オピニオン欄「常用漢字と私たち」から。

・・・最近よく見る「まん延防止等重点措置」や「医療ひっ迫」――。常用漢字でない字にひらがなを使うのを不自然と感じる人は多いようです。・・・この常用漢字に伴って起きるのが交ぜ書きの問題です。例えば、「まん延」は「蔓延」、「ひっ迫」は「逼迫」、東京五輪で日本人選手が17年ぶりに銅メダルを取った体操の「あん馬」も「鞍馬」と書けますが、「蔓」「逼」「鞍」は常用漢字ではないため、常用漢字だけを使うなら、ひらがなと交ざります・・・

時田昌・産経新聞元校閲部長の発言
・・・ 産経新聞はマスコミでは珍しく、「蔓延(まんえん)」「改竄(かいざん)」と読み仮名(ルビ)付きで漢字表記しています。漢字で書く熟語は全て漢字で表すのが自然と考えるためです。
「双璧」なども、2010年に「璧」が常用漢字に入る前から交ぜ書きをやめ、漢字ルビ付きでした。「双壁」と誤って書かれやすいですが、「壁のようにそびえている」わけではなく、「すぐれている」という意味の「玉」を含む「璧」が正しい。このように、表意性のある漢字は意味を正しく伝えやすい利点があるように思います・・・

・・・私は、日本新聞協会の新聞用語懇談会(用懇)委員を約20年務めました。その場で交ぜ書きの議論が活発になったのは1990年代です。北朝鮮の日本人「ら致」(拉致)、金融機関の経営危機で「破たん」(破綻)、「損失補てん」(補塡)がニュースに頻繁に出ていた頃です。「拉」「綻」「塡」は2010年の改定で追加されるまで常用漢字ではなく、交ぜ書きが頻出していました。
「日本人ら致」などは、「日本人ら」と別の言葉に読めてしまう。さすがに改善を求める声が上がり、用懇では96年、特に読みにくい「ら致」や「だ捕」(拿捕)は交ぜ書きをやめ、ルビ付きで漢字にするといった動きがありました。
それでも、まだ多くの交ぜ書きが残りました。報道各社は交ぜ書きをさらに減らす総論では一致したものの、どういう基準で減らすかを巡って意見が割れました。解消を進めすぎると、「難しい字が安易に使われかねない」と心配する声もあったのです。
用懇は02年に各社の用語担当者が参加する特別の検討部会を設け、1年余り議論した末、報道で使っていた三百余の交ぜ書きを、漢字に改める▽漢字に改め、仮名も振る▽別の表現にする――などと決め、約70まで交ぜ書きを減らしました。それでも「まん延」のように、気になる表記がまた出てくるのですね・・・

非認知能力

「非認知能力」って、ご存じですか。
時々目にするので、何のことか気になっていました。インターネットで検索すると、いくつか参考になる記事が見つかります。これだという記述は、見つからないのですが。

学力テストなどで測ることができない個人の能力です。意欲、忍耐力、自制心、協調性、コミュニケーション能力などがあげられています。
学術研究によって、非認知能力の高さが、学歴や収入に影響することが明らかになっています。また、学力のように1人で身につけられるものではなく、集団行動を通じて養われるものが多いといわれています。

えらく難しいことをいっているようですが、私たちがふだん経験し、知っていることですよね。
勉強ができるだけでは、職場ではよい成績を上げることができません。忍耐力や自制心は、ある程度は学力に伴うことがあるでしょう。勉強を続けることができたのですから。しかし、自己中心的で協調性のない人、ある案に対して批判するのは得意だけど代案を出さない人・・・私の若いときは、そのような人は「天動説」「学者」と批判されました。

採用面接は、それを見抜こうとしています。体育会系の部活動出身者が高く評価されるのは、それに取り組もうとした意欲、続けた忍耐力、集団行動ができる協調性があると評価されるのです。もちろん、認知能力(頭の良さ)を備えた上でのことです。
小学校ではしばしば、「知育、体育、徳育」の三つを教育の目標としています。この点を踏まえたことでしょう。
頭ばっかりでも、体ばっかりでも、ダメよね」は、プチダノンの宣伝でした。

ところで、非認知能力という表現では、内容がよくわかりませんね。子どもや子どもを持つ親にもわかるような、もっとよい表現はないのでしょうか。

コロナの影響、自殺者と出生数の増減。欧州と日本の差

朝日新聞ウエッブ論座、山内正敏・スウェーデン国立スペース物理研究所研究員の「コロナ禍での「自殺者増、出生数減」は欧州には当てはまらない。字面を見ると「緩い」が、実質的には欧州より「厳しい」日本の対策」(8月12日掲載)から。

・・・コロナ禍が自殺者数や出生数(妊娠数)にどんな影響を与えたのか気になっていた。
この手の速報の早い日本では、既に出生数の急減と自殺者の増加が判明している。昨年の第一波の間こそ自殺者は減ったが、その後増加して特に若い女性の自殺者がコロナ禍の期間に増加した(朝日新聞記事)。また、妊娠数(今年の出生数として反映)は、これまでのトレンド(4-5%減/年)以上に減っていることが判明している(右図)。

ならば、コロナ禍の被害が日本の10倍で、対策も厳しかった欧州は、もっと影響が大きいだろうと思っていた。しかしスウェーデンの統計結果は意外なものだ。自殺者数が2019年より減っており(長期統計的には増えていないという言い方になる、下の左図)、その理由を研究者が分析する新聞記事も出た。
また、出生数は今年2月以降微増していて、出生数減少の過去のトレンドを差し引くと実質的な増加と判断して良いだろう(上の右図)。
自殺が増えていないのはスウェーデンだけではない。ドイツ、オーストリア、英国イングランド地方の速報でも微減で、少なくとも増えていない(統計的にはここまでしか言えない)。
出生数の増加はドイツでも見られて、今年3月は過去20年で最大の出生数となった。「コロナによるベビーブーム」と報道しているところもあるぐらいだ。
日本とここまで違うのは何故か?・・・

・・・日本の場合は、「ロックダウンをしない」「緊急自体宣言時以外は強制的な制限もしない」という、字面だけ見れば北欧の方式よりもさらに緩い規制が特徴だ。
厳しかった欧州と、緩かった日本。これが名目上の対策の厳しさだ。しかし、自殺者数や出生率は、日本だけが悪影響を受けている。そもそも、「客観的」な対策の強弱は、必ずしも「体感的な」対策の強弱を意味しない。例えば税金だが、同じ税率でも「高過ぎる」と思うか「高いけど妥当」と思うか、日本と北欧とタックスへブンでは、全然違うだろう。
となれば、日本の対策が、実質的には北欧や、ことによってはドイツより厳しかったと考えるのが自然だ。では、その要因は何なのか? 思いつくのが、「同調圧力」と「公平感(サポートの多寡を含む)」、「将来への見通し」だ。

同調圧力については改めて語るまでもあるまい。義務化どころか勧告すらされていない「お願い」なのに、たとえば他県に出かけて白い目で見られ、時には暴力的な言葉でなじられ、実際に暴力行為も発生したといった例は数多く報道されている。もちろん、極端な例ばかりが報道されている可能性はあるし、スウェーデンにもそれなりの同調圧力はあるが、それでも日本に住んでいた頃や日本に帰省した時に感じる「白い目」は、スウェーデンや欧州出張の時に感じる「白い目」よりもはるかに強い・・・

・・・こういう2年目に向けた対応は、将来への見通しという、別の「体感」要素にも繋がる。現時点での困窮でなく将来への漠然とした不安と、それによる鬱症が若年自殺層には多いと思われるからだ。
その点、北欧やゲルマン各国はセーフティネットがしっかりしているし、転職のサポートも強い。つまり、コロナによる将来の困窮を日本ほど心配する必要がないのだ。さらに「非日常」という状況が、悩みや鬱を棚上げにする心理効果もあるだろう。それらがキャンセルして、自殺者が増えないという結果を生んでいるのではないか。出生率の上昇も、将来への見通しが暗くないからこそ可能だ。

また、短期目標の立て方も欧州は明快だった。「クリスマス、夏の休暇をとれるようにがんばろう」という目標である。特に夏休暇は絶対に守るというスタンスは、日本人には理解し難いかもしれない。しかし、昨年はそれが最終防衛ラインで、一番収束の遅かったスウェーデンすら間に合って、国内の別荘に散って行った。今年は昨年困難だった欧州内のバカンス地域に行くことを最終目標に、ワクチンを普及させつつ、長くて厳しいコロナ対策に欧州人は耐えて来た・・・
原文をお読みください。