朝日新聞ウエッブ論座、山内正敏・スウェーデン国立スペース物理研究所研究員の「コロナ禍での「自殺者増、出生数減」は欧州には当てはまらない。字面を見ると「緩い」が、実質的には欧州より「厳しい」日本の対策」(8月12日掲載)から。
・・・コロナ禍が自殺者数や出生数(妊娠数)にどんな影響を与えたのか気になっていた。
この手の速報の早い日本では、既に出生数の急減と自殺者の増加が判明している。昨年の第一波の間こそ自殺者は減ったが、その後増加して特に若い女性の自殺者がコロナ禍の期間に増加した(朝日新聞記事)。また、妊娠数(今年の出生数として反映)は、これまでのトレンド(4-5%減/年)以上に減っていることが判明している(右図)。
ならば、コロナ禍の被害が日本の10倍で、対策も厳しかった欧州は、もっと影響が大きいだろうと思っていた。しかしスウェーデンの統計結果は意外なものだ。自殺者数が2019年より減っており(長期統計的には増えていないという言い方になる、下の左図)、その理由を研究者が分析する新聞記事も出た。
また、出生数は今年2月以降微増していて、出生数減少の過去のトレンドを差し引くと実質的な増加と判断して良いだろう(上の右図)。
自殺が増えていないのはスウェーデンだけではない。ドイツ、オーストリア、英国イングランド地方の速報でも微減で、少なくとも増えていない(統計的にはここまでしか言えない)。
出生数の増加はドイツでも見られて、今年3月は過去20年で最大の出生数となった。「コロナによるベビーブーム」と報道しているところもあるぐらいだ。
日本とここまで違うのは何故か?・・・
・・・日本の場合は、「ロックダウンをしない」「緊急自体宣言時以外は強制的な制限もしない」という、字面だけ見れば北欧の方式よりもさらに緩い規制が特徴だ。
厳しかった欧州と、緩かった日本。これが名目上の対策の厳しさだ。しかし、自殺者数や出生率は、日本だけが悪影響を受けている。そもそも、「客観的」な対策の強弱は、必ずしも「体感的な」対策の強弱を意味しない。例えば税金だが、同じ税率でも「高過ぎる」と思うか「高いけど妥当」と思うか、日本と北欧とタックスへブンでは、全然違うだろう。
となれば、日本の対策が、実質的には北欧や、ことによってはドイツより厳しかったと考えるのが自然だ。では、その要因は何なのか? 思いつくのが、「同調圧力」と「公平感(サポートの多寡を含む)」、「将来への見通し」だ。
同調圧力については改めて語るまでもあるまい。義務化どころか勧告すらされていない「お願い」なのに、たとえば他県に出かけて白い目で見られ、時には暴力的な言葉でなじられ、実際に暴力行為も発生したといった例は数多く報道されている。もちろん、極端な例ばかりが報道されている可能性はあるし、スウェーデンにもそれなりの同調圧力はあるが、それでも日本に住んでいた頃や日本に帰省した時に感じる「白い目」は、スウェーデンや欧州出張の時に感じる「白い目」よりもはるかに強い・・・
・・・こういう2年目に向けた対応は、将来への見通しという、別の「体感」要素にも繋がる。現時点での困窮でなく将来への漠然とした不安と、それによる鬱症が若年自殺層には多いと思われるからだ。
その点、北欧やゲルマン各国はセーフティネットがしっかりしているし、転職のサポートも強い。つまり、コロナによる将来の困窮を日本ほど心配する必要がないのだ。さらに「非日常」という状況が、悩みや鬱を棚上げにする心理効果もあるだろう。それらがキャンセルして、自殺者が増えないという結果を生んでいるのではないか。出生率の上昇も、将来への見通しが暗くないからこそ可能だ。
また、短期目標の立て方も欧州は明快だった。「クリスマス、夏の休暇をとれるようにがんばろう」という目標である。特に夏休暇は絶対に守るというスタンスは、日本人には理解し難いかもしれない。しかし、昨年はそれが最終防衛ラインで、一番収束の遅かったスウェーデンすら間に合って、国内の別荘に散って行った。今年は昨年困難だった欧州内のバカンス地域に行くことを最終目標に、ワクチンを普及させつつ、長くて厳しいコロナ対策に欧州人は耐えて来た・・・
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