連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第87回「社会の課題の変化―孤独・孤立問題に政府の取り組み」が、発行されました。前回に続き、孤立問題への取り組みについて説明しています。
イギリス政府が、2017年に孤立問題を検討し対策を取りまとめました。そして2018年に、担当大臣を置きました(スポーツ・市民社会担当大臣(副大臣級)の所掌事務に追加)。
日本でも、2021年2月に、一億総活躍担当大臣が、孤独問題も担当することになりました。特徴的なのは、内閣官房に置かれた担当室が、非営利団体と連携して取り組んでいることです。これらの問題では、行政より先に非営利団体が対応しました。また、行政には、この問題を直ちに担うだけの組織と人員がありません。私の主張している三元論が現れつつあります。このあと、官民連携がどのように進むか、見守りましょう。
さて、格差と孤立は、これまでの生存や安全、豊かさとは違った次元の被害や不安です。豊かな社会を達成し生存の問題を解決したと思ったら、生きがいが問題になりました。有名なマズローの要求5段階説を思い出します。人間の欲求を、生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求の5段階に分けたものです。生理的欲求と安全欲求が実現されると、社会的欲求や承認欲求が求められます。
そして、ここにおいても「後ろの安心とともに前の希望」が重要になります。昭和後期は貧しく経済格差もあったのに不安が目立たなかったのは、前に「豊かになれるという夢」があったからです。社会が成熟すると、「落第しない程度の成績でよい」「頑張っても仕方がない」という意識が広がります。どのようにしたら、若者に希望を持てる社会をつくることができるか。難しい問題です。
ロシアの文豪トルストイの小説「アンナ・カレーニナ」の冒頭に、有名な文句があります。「幸せな家族はいずれも似通っている。だが、不幸な家族にはそれぞれの不幸な形がある」
確かにそうなのですが、現在日本の社会生活問題には、共通の根があるのです。小説は不幸の違いを描きますが、社会学と行政は共通の原因を見つけ、対策を考えます。
身近な問題から、マズロー、トルストイ。我ながら、この連載は広い範囲です。