6月17日の朝日新聞オピニオン欄、宇野重規・東大教授のインタビュー「民主主義を信じる?」から。
・・・民主主義の危機があちこちで語られている。ポピュリズムの広がり、日本政治の現状、権威主義体制の台頭、巨大プラットフォーム企業の影響の高まり……。背景に様々な動きがある中、政治学者の宇野重規さんに聞いた。危機の本質は何ですか? 本当に危機なのですか? そして、民主主義を信じられますか?・・・
――昨年10月、日本学術会議の会員に推薦されたのに菅義偉首相から任命を拒否されました・・・学問の自由、日本学術会議法の問題として批判されました。民主主義とつながりますか。
「政権が判断の理由を一切説明しなかったことが問題だと考えました。各人が自分の判断や意見の理由を説明するのは、民主主義が機能するための基本的な条件だからです。私個人の任命拒否が妥当かどうかとは別問題です」
「なぜそう考えるか。どんな判断・意見であっても、まずはその理由が示されることで、議論が始まります。今回の問題であれば、政権が理由を明らかにして初めて、世論の側から疑問や批判も生まれる。政権側もさらに応答していく。こうした意見の応酬こそが、民主主義の基盤なのです」
「民主主義は短期的には誤った結論を導き出すこともあります。ただ、多様な意見が示され続ける社会であれば、振り子のように修正がきく。一方今回のように『理由の提示』がない状況では、健全な論争ではなく、臆測と忖度が誘発される。結果的に、言論や学問の自由も損なわれてしまいます」
――ポピュリズムや権威主義体制の台頭も「危機」と言われます。警鐘を鳴らすのは重要ですが、常に「危機だ」と言われると釈然としない部分があります。
「『オオカミ少年』のように見えてしまうということですよね。ただ、私はいま『これまでの危機』とは違う局面にあると考えています。民主主義の基本的な理念の部分が脅かされているのです」
「私たち自身の中に、『平等な個人による参加と責任のシステム』自体を否定する感情が生まれつつある。自分たちが意見を言おうが言うまいが、議論をしようがしなかろうが、答えは決まっている。ならば誰か他の人が決めてくれればそれでいい――そういう諦めの感覚に支配されること。これこそが民主主義の最大の敵であり、脅威だと思います」