日本は貧しい国

4月6日の朝日新聞オピニオン欄「株高 冷たいバブル」、坂本篤紀・日本城タクシー社長の「日本の実態は貧しい国」から。
・・・じつはコロナの前から、日本の経済は終わっていると感じてました。海外のお客さんが口をそろえて言うのは「日本は物価が安い」。日本は円安とデフレで「貧しい国」だから、海外から観光客が来てただけなんですよ。
少しでも客をとろうと、割引をしている事業者もたくさんいます。でも、僕は逆やと思うんです。労働を安く売ったら、日本はますます貧しくなるだけでしょ。公務員たたきや生活保護バッシング、何よりもそれらをあおる政治にももううんざりです。
お金がないと優しくなれないのは当たり前。けど、それで、他人の足を引っ張ったところで、みんなで貧しくなるだけやないですか。「あいつらがいるから悪い」じゃなくて、「俺にもくれ」と言わなあかん。給料が増えれば、みんなお金をつかって、税金も払いますよ・・・

日本の労働者の賃金は、安いのです。2000年から2019年にかけての平均賃金の伸び率は、G7中ほかの6か国は、アメリカやイギリスでは7割近く、イタリアでも4割ほど伸びているのに、日本だけが減少しています(OECD調査)。
最近のビッグマック指数は、アメリカ590円、イギリス493円に対し、日本は390円です。タイが443円、韓国428円で、日本より高いのです。原材料費に大きな差がないとするなら(少なくとも日本の原材料費が安いとは思えません)、差の原因は人件費でしょう。日本の労働者が、安く使われているのです。

「競争が厳しいから、価格を据え置き、賃金も上げられない」と経営者は言いますが、日本国内の外食やファストフードは国際競争しておらず、国内の他社と競争しています。ハンバーガーも牛丼も人件費を上げて、価格に転嫁すれば、売れ行きが落ちることはないでしょう。

難局に臨んで、優先順位をつける

4月5日の日経新聞、仏文学者・鹿島茂氏に聞く、「コロナ対策、渋沢に問う 「経済と道徳の両立」めざす」から。
・・・パンデミック(世界的大流行)がなかなか終息しない。感染防止と経済が両立せず、国民には疲れも見える。経済と道徳は両立すると説く実業家、渋沢栄一なら、難局をどう乗りきるか。長年、研究してきた仏文学者、鹿島茂氏に聞いた・・・

・・・――新型コロナ対策と経済活動の維持は「あちら立てれば、こちら立たず」の状態です。明治政府などで難局に取り組んだ「日本資本主義の父」は何をするでしょうか?
何かやるときに別の問題がじゃまして身動きがとれない。同様の状況を明治政府は多く抱えていたが、渋沢は「改正局」をつくって何が問題か、問題点を洗い出した。
彼はどんな状況に直面しても、何が問題かをつきとめようとする。優先順位を決め、第1位の問題から順に手をつける。解決しやすい問題は有能な人材に任せ、通貨や銀行など解決困難な問題は自ら解決して近代的な金融制度を確立した。
いまはコロナの感染防止が先だろうから対策を徹底するはずだ。最初に外国から人を極力入れないようにしていれば、被害は最小限にできただろう。経済をないがしろにするわけではなく、コロナ対策がめぐりめぐって経済の維持につながる。
渋沢は道徳や禁欲を説いた点を強調されがちだけど、お金もうけを否定したわけではない。商売と道徳は両立しないという立場もあるが、本質をよく考えると、決して対立しないというのが渋沢の考えだ。論理学でいう二項対立、一得一失ではないという・・・

鹿島先生はこのホームページでもときどき取り上げていますが、フランス文学者です。渋沢栄一さんの研究者であることを、先日知りました。著書の「渋沢栄一」(上下。文春文庫)を読み始めました。面白いです。渋沢氏の伝記というより、渋沢さんを通してみた明治開化の歴史です。
ところで、今回の記事の写真、背景は先生の本棚でしょうね。

戦後民主主義の罪、2

戦後民主主義の罪」の続きです。もたらした罪はいくつかありますが、大きく括ると「利己主義」「建て前と本音の使い分け」と「憲法の神格化」に、まとめることができるでしょう。
「利己主義」「建て前と本音の使い分け」は、戦後の発展に寄与しました。しかし、それもいくつかの面で限界に達しました。それが露呈したことで、「戦後民主主義」の限界が見え、評価が下がったのだと思います。

1 利己主義
新憲法が個人の尊重を定めたことにより、各自が自由に生きることができるようになりました。戦前の全体主義や、封建的な束縛(ムラやイエ)から、解き放されました。各人が努力すれば豊かになれるという、経済成長期の時代背景もこれを促進しました。
他方で、自分と家族を優先する思想と行動は、「マイホーム主義」と呼ばれました。それは、社会への貢献を重視しません。

それは、「平和主義」にも現れました。平和を唱えますが、国際貢献はしません。積極的に平和を作るのではなく、他国に守ってもらうのです。そのような中で、物を世界に売りまくるので、エコノミックアニマルとも揶揄されました。
この「ただ乗り」が露呈したのが、1991年の湾岸戦争です。石油を運ぶタンカーを中東の交戦区域に送るのに、支援物資を運ぶ船は危険だと言って行かないのです。これは、戦後日本の最大の恥辱だと思います。

私権の制限が進まないことなども、ここに原因があるでしょう。コロナウイルス感染拡大防止のための行動制限が、各国では法律で行われるのに、日本では自粛要請で行われます。国民に番号を振って、行政手続きを効率化することも、税金の手続きを簡素化することも、進みません。

かつて紹介した「橋の哲学」もそうです。美濃部都知事が、反対意見のある公共事業を中止する際に、「1人でも反対があれば橋は架けない」という言葉を引用しました。この言葉はフランツ・ファノンの言葉だそうですが、この言葉の続きにある「その代わり川を歩いてる」といった趣旨の部分を省略してあります。このような発言が、支持されるのです。
この項続く

政策の検証

4月3日の日経新聞夕刊に「福島沖の洋上風力発電 撤去、消える復興の夢」が載っていました。
・・・東日本大震災から10年、この間おこなわれた「復興事業」のひとつに、福島沖洋上風力発電実証事業がある。目的は、世界初の複数基による浮体式洋上風力発電システムの安全性・信頼性・経済性を明らかにすること、福島沖での実証と事業化により風力発電関連産業の集積を期待することなど。
楢葉町沖合20キロメートルには3基の浮体式洋上風力発電施設と1基の変電機が設置された。ところが昨年12月、政府は不採算を理由に、設置した施設を2021年度に全て撤去すると決めた・・・

・・・では、肝心の技術開発はどうなったのか。事業は大手の重電・海洋・造船・素材メーカー、商社など10社、1大学からなるコンソーシアム(共同事業体)が請け負った。コンソーシアムのパンフレットには「東日本大震災の被害からの復興に向けて,再生可能エネルギーを中心とした新たな産業の集積・雇用の創出を行い、福島が風車産業の一大集積地となることを目指しています」とある。
だが、早くから機器の不具合や稼働率の低さが報じられていた。特に世界最大級の風車(7メガワット機)については、経産省が委託した専門家委員会が18年に「商用運転の実現は困難であり、早急に発電を停止し、撤去の準備を進めるべきだ」と提言した。残った2基も、実用化に向けて引き継ごうとする事業者はいなかった。
投じられた国費は約600億円。データは取れたというものの、県や自治体が切望した自然エネルギーも地元の雇用も産業も生み出すことなく、洋上風力は福島の海から姿を消そうとしている。洋上風力による復興という福島の大いなる夢を深い失望に変えて、事業にかかわった方々は今、どのような思いをお持ちなのだろうか。復興の文脈における事業の検証を望みたい・・・

この3基の風車は楢葉町の岬からよく見え、私も期待していました。残念です。新しい技術の開発ですから、失敗することもあるでしょう。でも、欧米ではたくさんの風力発電が稼働しています。日本を代表する企業が参加していても、こんなに簡単に失敗するのでしょうか。
600億円と聞くと、考え込みます。起きたことは仕方ないとして、何が原因だったのか、検証が必要です。

「東日本大震災 復興の教訓・ノウハウ集」

復興庁が「東日本大震災 復興の教訓・ノウハウ集」を取りまとめ、発表しました。「教訓・ノウハウ編」(238ページ)と「事例集」(285ページ)の2冊です。いずれも大部です。
まず「教訓・ノウハウ編」冒頭のマトリックス(p4~p7、pdfでは9枚目から12枚目)をご覧ください。
・「被災者支援」「住まいとまちの復興」「産業・生業の再生」「協働と継承」の4つの分野で、
・時系列(応急期、復旧期、復興前期、復興後期)に分けて、
項目を整理してあります。これは見やすいです。
そして本文(各項目)では、
・課題を提示し、状況と取り組みを説明し、教訓・ノウハウを示してあります。

東日本大震災(津波被害)では、被災者支援から始まり、住まいとまちの復興、産業・生業の再生、コミュニティ再建にまで支援を広げました。施設の復旧だけでなく、町や暮らしの復興にまで及んだのです。そして、行政だけでなく、企業やNPO、住民などとも協働しました。冒頭のマトリックスを見ていただくと、それが一目瞭然になっています。
後輩たちが、良い資料をまとめてくれました。

各府省や各局も、1つの仕事を終えたら、このような成果物をまとめて欲しいですね。特に内閣官房に置かれる各種本部は、使命を終えると廃止されるので、記録を残す、それも次に役立つ資料をまとめることが重要です。今の時代は、それをインターネットで簡単に調べることができるのです。