連載「公共を創る」第77回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第77回「社会の課題の変化―さまざまな問題の発生とその対策」が、発行されました。

前回(4月1日号)まで、社会生活問題への取り組みの例として、安倍第一次政権での、再チャレンジ政策を取り上げ説明しました。
その他にも、平成時代には「人間らしい生き方への被害」が幾つも顕在化しました。それらの問題のうち対策が取られ、成果が挙がったものを中心に、代表的なものを説明します。今回は、雇用、困難を抱えた人たちについてです。

今回も、掲載紙『地方行政』の2ページ目に載るという「出世」でした。

スポーツ選手、センスと努力

4月15日の日経新聞スポーツ面、権藤博さんの「松山と野茂の共通点」。
二人がセンスの塊であり、練習の仕方がうまい(天才とも違う)と評価した後、次のような話が紹介されています。

・・・さて、次は・・・。大谷翔平(エンゼルス)の番だ。日本代表で一緒になったとき、「オフは何をしている?」と尋ねると、「やることがないから練習してます」。彼も努力とセンスの人だ。努力が報われて、投打ともに、とんでもないことをしでかしそうな気がする・・・

緊急時の国と地方の役割分担

4月11日の読売新聞、辻哲夫・元厚労事務次官の「コロナで見えた予兆 増える高齢者 病床再編が必要」から。前回に続き、その2です。

・・・保健所の業務や機能についても逼迫が指摘されました。
保健所は1990年代の行政改革、地方分権推進の議論を受けて統廃合が進みましたが、国と自治体の権限、役割分担を改めて決める必要があります。もちろん「地方に任せるべき仕事は、任せる」のは当然です。しかし、コロナ禍のような危機的状況に直面した場合、国が司令塔として強い管理機能を持つことが重要です。
また、国は日頃から感染症対策の危機管理要員を育成し、いざという時、そのノウハウが自治体の保健所まで届く体制にする。

国は次期医療計画(2024~29年度)の重点事項に「新興感染症等の拡大時における医療」を加えました。国家プロジェクトとして感染症対策を見直す必要があります。感染症大流行との戦いは、いわば「有事」です。国際的な人口流動性を考えれば、今後も大流行は十数年に1度は起こりうる。安全保障の観点から感染症対策を考えるべきです・・・

東日本大震災の際も、通常の災害では県や市町村の役割である業務も、県や市町村の手に負えないため、国が乗り出しました。「地域でできることは地域で」というのが分権の思想ですが、緊急時には国が自治体を補完するべきです。

ドイツの社会的能力

先日紹介した、高松平蔵著「ドイツの学校にはなぜ『部活』がないのか」に、「社会的能力」の説明があります(156ページ)。
子ども向けスポーツの広告に、運動能力と並んで、社会的能力が促進されることが書かれています。では、社会的能力とは何か。商工会議所が掲げる説明が紹介されています。

1 自己認識と外部認識
自分で自分のことをどう捉えているか。他人は自分をどう見ているかを認識する能力
2 コミュニケーションスキル
まざまな人と関係をつくっていく能力です。
3 異なる視点から見る能力と共感する能力
これも、他者と仕事をしていくために、相手を理解するために必要な能力です。
4 摩擦、批判の能力
仕事がうまく行かないとき、批判されることも批判することもあります。その摩擦、ストレスに耐える能力です。
5 チームワーク
上に述べた1~4の能力は、これに収斂されます。

著者は、日本企業がしばしば求める「体育会系」との違いを指摘します。特に4は、先輩の指示を聞くだけの人物ではダメだということです。
なぜ、商工会議所の解説が取り上げられているか。ドイツでは、日本と異なり、教育と職業がかなり密接です。そして、どの会社に属するかでなく、どのような職業かが重要です。大学に進学しない場合は、職業学校への就学が義務づけられています。職業教育を終えると、試験が行われ、商工会議所が職業資格を発行します。職業人に求められる資格が、定義づけられているのです。

医師も病床数も多く患者も少ないのに、逼迫するコロナ医療

4月11日の読売新聞、辻哲夫・元厚労事務次官の「コロナで見えた予兆 増える高齢者 病床再編が必要」から。
・・・新型コロナの大流行は、くしくも日本の医療提供体制の弱点を浮き彫りにしたのではないか。よく分析して、医療の総合政策を見直す必要があります。
コロナ禍では、病院がコロナ患者を受け入れきれず、入院待機者が膨れ上がった。その余波でがんなど本来の患者の入院診療も手いっぱいになる事態も招きました。
弱点の一つは、病院で医師や看護師が「薄い配置」になっている実態です。
日本の場合、人口あたりの医師や看護師の数は欧米とほぼ同水準である一方、病床数が過剰となっています。そうした中で、集中管理が必要なコロナ患者が数多く入院し、医療が逼迫したわけです。

もう一つは、医療提供体制が民間の中小病院に多く依存し、連携体制も不十分なので、機動的に動けなかったことです。民間病院は公的な病院と違って、行政の指導が及びにくく、病院間の連携もうまくいかないのです。こうした日本の医療が構造的に持つ弱点を改善し、よりメリハリをつけた医療提供体制にしていくべきです。
今回、もう一点気になったのが、開業医を中心とする「かかりつけ医」の役割がよく見えなかったことです・・・