2月5日の日経新聞経済教室、野口雅弘・成蹊大学教授の「政治とコミュニケーション 合意形成偏重に落とし穴」から。「政治は合意形成と選択肢提示双方が必要。議論なき「安定」優先は政治を貧困化する」
・・・価値観や感性が異なる複数の人間が集まって、集団としての決定をしようとするとき、私たちは一つの結論に到達できるように、丁寧にかつ妥協的に話を進めようとする。合意形成型のトーク(語り)が求められるのは、こうしたときである。
中学校のクラスや大学のサークルから、職場のプロジェクトチームまで、こうした志向のコミュニケーションは私たちの日常生活の多くの場面で使われている。それぞれの見解の隔たりを埋め、互いに歩み寄る努力が、このトークでは建設的な貢献として評価される。いわゆる「コミュ力(コミュニケーション能力)」という言葉もしばしばこうした意味で用いられる。
ただし、政治的コミュニケーションはこれに尽きるわけではない。大きな方向性をめぐる、対抗的な選択肢提示型のトークも必要なのだ。原発推進か脱原発か。夫婦別姓に賛成か反対か。あるいは議会や企業の取締役会の一定割合を女性にする「クオータ制」を導入すべきかどうか。どちらかを選ぶことで、私たちの社会のありようは大きく変わる。しかし、「あれかこれか」の問題なので、かなり激しくぶつかり合うこともあるかもしれない。
きちんと論争すべきこうした大きな課題について、与党と野党がお互いの立場を明らかにし、理由を述べて討論し、次の選挙のときの選択肢を示すことは、民主政治に不可欠なトークである・・・
・・・制御しきれない論争の噴出はゴタゴタ感を生む。しかし、論争を封印することによる安定性の確保は、疑問や批判を受けてコミュニケーションを深める可能性を損なってしまうことになるだろう。民主党政権末期には前者が問題にされたのに対して、コロナ禍の今は、むしろ後者が不満を生んでいるようにみえる。
政治において合意形成型のトークが重要なのは言うまでもないが、このトークだけが支配的になると、どうしても構成員に同調圧力がかかりやすくなる・・・