民主主義が機能する社会経済条件、2

民主主義が機能する社会経済条件」、待鳥聡史・京都大学教授の「民主主義再生、政党改革が鍵 危機克服への道筋」の続きです。

・・・だがこうした構図は1970年代以降、次第に崩れていった。先進各国は労働集約型・資本集約型(製造業)から知識集約型(金融・サービス・知的財産などの業種)へと主要産業を変化させ、90年代以降のグローバル化やIT(情報技術)化はその流れを加速した。経済的豊かさを得た人々は社会文化的少数派の権利や環境問題などの新しい争点へと関心を移した。人口構成の少子高齢化や経済格差の拡大も生じた。主要政党は政策面でこうした変化に対応できず、支持基盤の縮小と不安定化が進んだ・・・

・・・以上のことから、代議制民主主義に対するポピュリズムや権威主義の挑戦は社会経済構造の変化に起因するところが大きく、特定の政治指導者の退場で消え去りはしないだろう。それだけに深刻な課題といえる。
挑戦を退け、代議制民主主義が魅力と活力を取り戻すには、マスの政治参加と統治エリートの迅速な政策決定を従来にもまして両立させるとともに、社会や経済が直面する課題への応答能力を示す必要がある。

ここで重要になるのが政党のあり方だ。代議制民主主義には政党政治が不可欠だが、その政党が社会的基盤を失い、狭い範囲の強固な支持層のみに依存する状態に陥っている。主要政党が人々の価値観の多様化を踏まえ、若年層など従来とは異なる人々の党内過程への参加を認めて新しい支持基盤を形成することは、とりわけ社会文化的課題への応答能力を高める・・・

民主主義が機能する社会経済条件

1月8日の日経新聞経済教室、待鳥聡史・京都大学教授の「民主主義再生、政党改革が鍵 危機克服への道筋」から。

・・・最も正統性の高い政治的意思決定の方法として、民主主義が広く受け入れられるようになったのは19世紀半ば以降のことだ。それは代議制、すなわち普通選挙と議会の組み合わせの定着による。代議制民主主義は、有権者である一般市民の意向を議会の構成や大統領の選出に直接反映させながら、個々の政策決定は多くを政治家の判断に委ねることが基本原則である。
代議制民主主義を安定させた要因は、一般市民(マス)と政治家や官僚などの統治エリートのどちらか一方が圧倒的な影響力を持たないこと、マスの間に存在する多様な考え方を政権交代や権力分立により表出すること、統治エリートの専門能力を活用した判断を日常的には尊重し、有権者は選挙を通じて評価することにある。これらの組み合わせにより、迅速な政策決定と特定の勢力の過大な影響力排除を両立させてきた。
ところが今日、代議制民主主義を否定的に評価し、それとは異なる意思決定方法を追求する動きが先進諸国など各地で表れている・・・

・・・代議制民主主義の隆盛の出発点には、19世紀に生じた2つの決定的変化、すなわち国民国家の形成と産業革命があった。
前者は、地理的に区分された国家という領域内で、政治・経済・社会の活動がほぼ重なり合って行われ、そこに住む人々が国民としての意識を共有することを意味していた。普通選挙の広がりもこの文脈の上にある。
後者は、経済活動の中心が農業から商工業に変わり、特に工業部門で資本家・経営者と労働者の区分が生じることを意味していた。

国民国家の形成と産業革命により、政治の争点は一国内での経済的利益配分にほぼ集約された。20世紀に入ると、都市部での資本家・経営者と農村での地主の利益を代表する保守政党と、労働者や小作人の利益を代表する社会民主主義(社民)政党の対立が各国の政党間競争の基本構図となった。第2次世界大戦後には、政権交代を伴いつつ保守政党と社民政党が競争して、安定した経済成長とその果実の配分による生活水準の向上や社会保障の拡充が図られた・・・
この項続く

子どもの嘘にどう対処するか

1月12日の日経新聞夕刊に「子供の嘘 親はどう対処 保身目的はSOSの可能性」が載っていました。
・・・嘘をつくのは悪いことと考えている人は多いだろう。しかし、子供の嘘は「つかざるをえない何らかの事情がある」と心理学では考えるという。子供が嘘をついたとき、どんな対処が望ましいか・・・

そこに、見逃してはいけない3つの嘘が載っています。
1 保身のための嘘。試験の成績が悪かったときに、「まだ答案が戻ってきていない」と話す。
2 自分を大きく見せるための嘘。チーム全員が褒められたのに、「自分だけが褒められた」と話す。
3 わがままを通すための嘘。約束した宿題が終わっていないのに、「終わった」と言ってゲームをする。

「嘘を言ってはいけない」と教育されますが、嘘を言った場合の教育は教えてもらっていません。叱るだけでは、改善されない場合もあります。
これは子供の例ですが、職場にも当てはまる場合があります。原文をお読みください。

肝冷斎、一部復活

長く更新されなかった「肝冷斎日録」。一部復活したようです。
どうやら、以前のホームページは故障したままで更新されず、新しくホームページを立ち上げたようです。見ていただくと、11月9日以降は、新しいホームページで日録を閲覧できます。それ以前のページには、リンクがつながっていないようです。いずれ、このいきさつも、ホームページに載るでしょう。
また、現地調査にも活躍しています。肝冷斎が元気でいたこと、またホームページが更新できることを喜びましょう。

私のホームページでも、かつて同じ事故が2度起きました。どうやら、分量が多くなって容量を超えたようです。素人には何が起こっているかわからず、いろいろ試みてみるのですが、事態を悪くしているようです。本当に困るのですよね。
私の場合は、専門家に頼んで、過去のデータを新しいホームページに移植してもらいました。

世論調査項目、賛成ですか反対ですか

報道機関が、しばしば政治に関して、世論調査をします。その質問の仕方を見て、考えることがあります。例えば、1月12日の朝刊に載った世論調査結果です。
◆原子力発電を利用することに賛成ですか。
賛成29▽反対57
◆原子力発電は今後、どうしたらよいと思いますか。
ただちにゼロにする9▽近い将来ゼロにする62▽ゼロにはしない21

原子力発電をやめることも、あって良いと思います。しかし、その影響をどのように埋めるかです。
方法としては、火力発電で補う、再生可能エネルギーで補う、経済活動を縮小するなどがあるでしょう。しかし、火力発電は、地球温暖化につながります。再生可能エネルギーは、まだ量として不十分でかつ不安定、費用もかかります。経済活動の縮小は、生活にも大きな影響を及ぼします。
「ただちにゼロにする」「近い将来ゼロにする」という選択肢を選ぶなら、その減った分をどのように穴埋めするか、またそれを実現するまでのつなぎの方策も聞かないと、答えにはなりません。

次の質問も同様です。
◆福島第一原発にたまる汚染された水から、大半の放射性物質を取り除き、国の基準値以下に薄めた処理水を、海に流すことに賛成ですか。
賛成32▽反対55

反対する場合は、たまり続ける水をどうするのかをあわせて問わないと、答えにはなりません。タンクを増やすことは、地元町にさらに負担を押しつけることになります。

かつて「橋の哲学」の事例がありました。美濃部都知事が、反対意見のある公共事業を中止する際に、「橋の哲学」として「1人でも反対があれば橋は架けない」という言葉を引用しました。この言葉はフランツ・ファノンの言葉だそうですが、この言葉の続きにある「その代わり川を歩いてる」といった趣旨の部分を省略してあります。
新型コロナウィルスに当てはめると、前段だけでは解決にならないことがわかります。「一人でも反対者がいると、外出自粛は要請しない」と言っていたら、感染は広がるばかりです。

判断には、絶対の善と悪に別れる場合は少なく、良い面と負の面があります。そして「反対」だけでは解決にならず、代案が必要なのです。