同一労働同一賃金、司法より当事者間の交渉で

11月12日の日経新聞経済教室、大内伸哉・神戸大学教授の「同一労働同一賃金 司法より当事者間の交渉で」から。
・・・10月13日と15日に最高裁で、労働契約法20条を巡る5つの判決が出された。同条は、同一の使用者に雇用される非正社員(有期労働者)と正社員(無期労働者)の間での労働条件の不合理な格差を禁止する規定だ。2018年の働き方改革関連法を機に、パート・有期雇用労働法8条に吸収された・・・
その判決については、マスコミが伝えているとおりです。ここで紹介したいのは、大内教授の次のような主張です。

・・・だが最高裁が既存の格差を是認したとみるのは適切でない。均衡待遇の実現は司法でなく、当事者が交渉で決めていくべきだというのが最高裁のメッセージであり、これは筆者の上記の見解に近い。
そもそも労働契約法20条やパート・有期雇用労働法8条は、格差が不合理とされても、非正社員に正社員と同一の労働条件を保障するものではなく、格差により生じた過去の損害の賠償請求が認められるにすぎない。将来に向けて待遇を改善するには、当事者間の交渉によるしかないのだ。

法は企業に、不合理な格差を設けることを禁じているが、具体的にどうすれば法を守ったことになるかを明確に示していない。上述のように、裁判では不合理性は個別事案の判断しかなされず、どんなに判例が蓄積されても、その判断基準の明確化には限界がある。
こうした状況下では不合理性を軸としている限り、スムーズな労使間交渉は期待できない。この問題の解決に必要なのは、企業が非正社員に対し納得できるような労働条件を提示したうえで、非正社員の同意を得ている場合には、その結果を尊重する(不合理とは評価しない)という解釈を確立することだ。
これは、法が企業に待遇の格差について説明義務を課したこととも整合する。これにより企業には、非正社員に労働条件の内容を丁寧に説明するインセンティブを与えるし、非正社員が納得した労働条件で就労できれば労働意欲は高まり、生産性向上にもつながる・・・