先日この欄で紹介した、内海健著『金閣を焼かなければならぬ 林養賢と三島由紀夫』(2020年、河出書房新社)。9月5日の朝日新聞の書評で取り上げられていました。評者は、石川健治・東京大学教授(憲法学)です。
・・・金閣を炎上させた若き僧侶・林養賢に対して、精神科医の「メタフィジカルな感性」を駆使して肉薄し、人間と社会、文学と制度、主観的精神と客観的精神の根本問題に迫ろうとした、全体化的モノグラフの傑作。
各分野の古典へ目配りを怠らず、常に地図を示しながらのナビゲーションは、読者に安心と納得を与える練達の臨床医の筆である・・・
・・・出来事としての「分裂病」へのアプローチは、「了解が挫折したところから始まる」。「社会というフレーム」にぶつかって初めて像を結ぶ「狂気」を主題化するためには、彼が抗った「得体の知れぬ他者」としての「言語」「社会」「制度」「権力」を問うと同時に、そこで彼が示した「実存の強度」そのものに向き合う必要がある。
著者は、「語り得ぬもの」としての金閣放火にとどまらず、養賢と三島のその後をも執拗に追跡する。問題意識の拡がりは、1968年のパリ5月革命に想いを馳せるあとがきにも明らかだ。何を引き出すかは、読者次第だということだろう・・・