コロナウィルス対策、強制と自粛

8月27日の日経新聞経済教室、大林啓吾・千葉大学教授の「自由・安全のバランス考慮を コロナと緊急事態法制」から。

・・・では第2波以降に備え、どのような改善が必要だろうか。換言すれば、第1波の対策では何が問題だったのか。第1波に直面した際、政府は新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を出し、自粛ベースの対策をとった。多くの国民がそれに応じて外出や営業を自粛したので、感染者や重症者の数は減少に転じた。政府が強制力を行使しなくてもうまくいった成功例のようにみえる。

しかし特措法は自粛の結果生じた損失に対する補償規定を置いていなかったこともあり、休業要請に従わない業者が一部存在した。政府は持続化給付金などの対応はとったが、営業損失そのものに対する補償はせず、補償の要否は自治体の対応に委ねられた。また自粛警察の横行や、自粛しなかった業者や県外移動者への嫌がらせなど、同調圧力により事実上服従を強いられたという問題も起きた。

そのため強制的措置と補償を巡る課題が浮上し、全国知事会は強制力と補償をセットで設ける法改正をすべきだと政府に提言した。確かに強制力を行使する代わりに補償をするという制度にすれば、責任の所在がはっきりする。また同調圧力による事実上の強制の問題も回避できるだろう。

他方で、日本のような穏健的対応で強制措置とほぼ同等の効果が得られたのであれば、権利制限の側面が強くなる法改正は必要ないといえる。実際少なくとも第1波についていえば、日本の対応は強制的に対応した国と比べてもそれほど遜色のない効果を得られた。
仮に強制と補償を盛り込まないとしても、緊急事態宣言発令に伴う自治体への支援措置を充実させる必要があろう。実際に強制的対応をとるのは自治体であることが多いからだ。外国でも緊急事態宣言は強制力の行使の発動ではなく、自治体への支援を始動するという仕組みをとる国がある・・・