書評に取り上げられていたので、ブレイディみかこ著『ワイルドサイドをほっつき歩け ハマータウンのおっさんたち』(2020年、筑摩書房)を読みました。
著者は、『子どもたちの階級闘争』『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で有名です。イギリスで働き、結婚し、子育てをしつつ、その体験から、イギリスの労働者階級や貧困層の生活実態を書いておられます。
この本は、月刊誌に連載された文章を、まとめたものです。ブレイディさんが暮らしている町での出来事、特にパブから生まれた交流を通じて、地域のおじさんたちの生態が描かれています。それが副題の「ハマータウンのおっさんたち」です。
ポール・ウイリス著『ハマータウンの野郎ども』(原著は1977年)で取り上げられた労働者階級の若者たちが、年を取って初老の「おっさん」になっています。彼らの楽しく、また悲しい生活です。ブレイディさんの軽快な筆で、笑って泣いて読めます。
出てくる人たちが、結婚、離婚、同棲を繰り返します。親の違う子どもたちの面倒を見ます。失業も。そのたくましさ、優しさに、引きつけられます。
また、イギリス特有のパブが、地域のコミュニティを支えていることがよくわかります。もっとも、近年はそのパブも、閉店が相次いでいるようです。イギリスの庶民の暮らしの一面を見せてくれます。
日本の庶民の暮らしを、このような視点から捉えた書籍はありませんかね。あまりに当たり前すぎて、本にならないのでしょうか。しかし、テレビドラマなどで取り上げられるような東京の若手の勤め人でない、地方都市での普通のおじさんとおばさんの暮らしを報告して欲しいです。
連載「公共を創る」で書いているように、この半世紀で日本の庶民の暮らしは大きく変わりました。そしていま、頼るべき「人生のお手本」、歳の取り方や近所付き合いの見本がなくなっているのです。落語に出てくる横町のご隠居、長屋の熊さん八さんの世界がいまや理解しがたくなったように、昭和の暮らしは遠くなったのです。そしてさらに変わりつつあります。